日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 28(2): 55-64 (2011)
doi:10.20731/zeoraito.28.2.55

解説解説

MOF の合成研究と細孔の特徴黎明期から成長期の研究例をみてStudies on Syntheses and Porous Properties of MOF From Dawn to Growth Phases

岐阜大学工学部Faculty of Engineering, Gifu University ◇ 〒501-1193 岐阜県岐阜市柳戸1-1

受理日:2011年4月1日Accepted: April 1, 2011
発行日:2011年6月10日Published: June 10, 2011
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最近,注目されているMOF(Metal-Organic Framework)は,金属と有機架橋配位子からなる有機-無機ハイブリッド化合物であり,従来の多孔体である活性炭,ゼオライトに次ぐ,第三の多孔性材料として認知されている。金属とデザインされた有機架橋配位子の,無数の組み合わせによって,さまざまな骨格を形成でき,テーラーメイドの細孔を実現できるはずである。MOFは,成長期を経て,成熟期を迎え,今まさに,分離,触媒,吸着剤への応用研究へとシフトしている。そこで,多くの材料科学者がMOFを扱うことを期待して,基本的なMOFの物質感を届けることを第一に,研究が生まれた背景,発展した経緯,合成の実際や問題点,MOFの大きな特徴である結晶柔軟性について述べる。

Metal-Organic Framework (MOF) with structurally well-defined nanoscale cavities are of great interest because of their characteristic properties, such as gas storage, separation, and catalysis. Numerous types of MOF have been synthesized and constructed with judicious choices of metals and designed bridging ligands affording tailored open channels and cavities. The interesting aspect found in those open spaces is their framework's flexibilities, where pore shapes and sizes change in response to penetrating guest molecules with maintaining of the framework in the solid state, which is rarely observed in other classes of porous materials such as zeolites and activated carbons. In this manuscript, we will briefly show the history, synthetic strategy, problem, and development about MOF, for the scientists and engineers who have never dealt with MOF. Especially, unique adsorption isotherms associated with the framework's flexibilities are shown focusing on our recent results.

キーワード:MOF;有機-無機ハイブリッド;細孔;吸着;結晶構造

Key words: MOF; organic-inorganic hybrid; porous; adsorption; crystal structure

1. はじめに

細孔性物質を扱っていなくても,最近よく,MOF(Metal-Organic Framework)という単語を目にする機会が多いだろう。MOFとは,1995年にOmar Yaghi教授(UCLA)が提唱し1),直訳すると金属-有機骨格,いわゆる金属に有機配位子が配位した金属錯体集積物をさす。昨年,トムソン社がノーベル賞の対象研究に,MOFを選んでおり,現在,学術誌にはMOFの結晶構造が溢れ,ホットな研究分野である。しかし,欧米やアジア諸国に比べて,日本におけるMOFの研究者数は,残念ながら少ない。考えられる理由は,MOFにおいて,すでに大きな合成指針が確立されていて,錯体合成化学者が新たに参入しないこと,また,従来の多孔性材料を扱う研究者らが,応用研究のためにMOFを扱おうとするが,異なる物質感に戸惑うためではないだろうか。これまでに,多くのMOFに関する英文レビュー2–4)が書かれているが,最先端のナノテクノロジーを意識したものがばかりであり,具体的な物質感を感じられる解説書はほとんどない。そこで本解説では,MOFを扱うことへの抵抗を少しでも緩和するために,MOFの研究がどのような経緯で発展し,今現在どういう状況にあるのかを,これまで合成研究に携わってきた錯体化学者の立場から,平易に述べたい。

2. MOFとは?

MOFの研究は,もともと,金属錯体を扱う物性科学者が,金属間の相互作用をもたせることを目標に,金属錯体を固体中で連結(集積)させることに端を発している。MOFイコール,ポーラス(多孔性)というイメージがあるが,Metal(金属)とOrganic(有機物)によるFramework(骨格)なので,本当は,細孔が無くてもMOFということになる。厳密には,MOFの前に,Openを付けて,Open Metal-Organic Framework とすると,正確に化合物を表すことになるが,現在のところ,MOFで浸透している。一方で,MIL, PCP, MOM など,個々の研究者が,独自の考えで呼称している単語もあるが,広義にはMOFと同じ意味である。

3. MOFの黎明期から成長期

1995 年に,Yaghi 教授が提唱し,その後,自身が合成した化合物にMOF-(番号)と名付けたことで,MOFという言葉が浸透し始めた。しかし,1995年以前にもネットワーク型の金属錯体は報告されている。例えば,1990年にRobson教授ら5),1994年には岩本教授ら6)によって,ゲスト分子を包接したシアノ架橋ネットワーク型錯体が報告されている(図1)。また,1994年に藤田教授らは,4,4′-ビピリジン架橋カドミウム錯体は形状選択的ゲスト分子包接能があるという,先駆的な機能研究を報告している7)。さらに言えば,このような無限骨格を有するネットワーク型錯体は,古くより研究されてきたプルシアンブルーにみられるように,各段珍しい化合物ではない。だが,溶媒分子を包接して,脆く壊れやすい化合物でも,迅速に測定解析ができる単結晶X線構造解析装置の進歩と,MOFの概念が提示されたことで,新しい化合物が続々と報告されるようになった。

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図1 MOFの黎明期に見出された主要研究

黎明期といえる1995年頃,MOFの研究目標は,いかに安定な細孔を維持させるかであった。つまり,合成直後には,細孔内に合成溶媒が取り込まれており,この溶媒分子を取り除くと骨格が崩壊してしまうことが,当時の大きな問題であった。ゼオライト骨格に用いられる共有結合の解離エネルギーは~350 kJ/molであり,MOFを形成している配位結合は50~100 kJ/molと弱く,頑丈で安定な細孔を実現することは不可能との見方が多かった。しかし,1997年に,北川教授らによって,常温高圧下でメタン吸着するMOFが報告され8),溶媒分子を取り除いた後も,安定な細孔を実現可能であることが証明された。その後,吸着活性のMOFが続々と報告され,現在では,吸着測定が,MOFが安定な細孔を維持するかどうかの1つの指標となっている。一方で,森教授(神奈川大学)は,20~30年前から磁性研究の一環で,ネットワーク型錯体であるジカルボン酸銅錯体を用い,低温で酸素分子を吸着することを,独自に見出していた9)ことは,特筆すべき点である。

4. MOF合成の実際

合成時に包接される溶媒分子を除いても,安定に骨格維持できることが見出された後,次の目標は,いかに合理的にMOFを構築するかであった。一般的には,MOFの合成は簡便であり,金属イオンを含む溶液と,有機架橋配位子を含む溶液を,ある条件下で混合するのみである。混合すると,有機架橋配位子と金属が配位と解離を繰り返し,時間とともに高分子化し,ある大きさに成長/凝集すると溶けなくなり,粉末もしくは結晶として析出する(図2)。平面型四配位,四面体型四配位,八面体型六配位など,金属は種類によって配位構造のとりやすさがあるため,適切な金属を選び,有機架橋配位子の配位部位を考えれば,望みどおりの規則構造を構築できるはずである。しかし,金属は通常,Mn+,と正電荷をもつため,規則構造の中では,この電荷を補償する負電荷をもつ物質が存在しなければならない。例えば,図3にあるように,八面体型六配位をとりやすいCo2+と,代表的な架橋配位子である4,4′-ビピリジンを混合したら,ジャングルジムのような3次元網目構造ができるかというと,否である。実際は,正電荷を補償する対アニオンがCo2+に配位するなど,希望通りにいかないことが多い。また,仮に,3次元網目骨格ができたとしても,対アニオンが細孔を充填してしまい,MOFとして機能しないことになる。

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図2 一般的なMOFの合成

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図3 Co2+と4,4′-ビピリジンを混合した場合

そこで,工夫が必要となる。90年代最後,競うように,ブレークスルーとなる,2つの化合物が報告された10,11)。1 つは4,4′-ビピリジン架橋ヘキサフルオロケイ酸銅化合物であり10),もう1つはMOF-5(もしくはIRMOF-1と呼ばれている)である11)。4,4′-ビピリジン架橋ヘキサフルオロケイ酸銅化合物は,Co2+に4つの4,4′-ビピリジンが配位して2次元網目格子構造を形成し,その2次元格子を,Co2+のアキシャル位で,ヘキサフルオロケイ酸アニオンが連結することで3次元骨格を形成している。金属であるCu2+の正電荷を,架橋性のヘキサフルオロケイ酸アニオンで補償し,3次元骨格の一部を担うことで,8× 8Å2 の細孔を実現している。一方,MOF-5は,Zn4Oが節となり,それをテレフタル酸が架橋して,美しい3次元網目構造を形成している。Zn4Oは,4 つのZn2+が,中心のO2−とともに四面体四配位し,6+の正電荷をもつクラスターを形成し,それらをジカルボン酸配位子が,6つで連結することによって成り立っている(図4)。当然ながら,いずれも安定な空孔を提供し,非常に大きな細孔表面積をもつ。

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図4 MOF-5の結晶構造と,SBUとなるクラスター錯体

特に,MOF-5は,幅広い研究対象となっており,最も認知度の高いMOFであろう。また,MOF-5は,さまざまな合成指針を与えたMOFでもあり,SBU(Secondary Building Unit)と呼ばれる考え方を提示した。SBUとは,MOF-5の場合,Zn4Oのクラスター部位を指す(図4)。金属単独を,骨格の節として用いると,先に述べたように,電荷を補償し合うためにアニオンが配位するなど,必ずしも予想したとおりの結晶構造をとらない。しかし,クラスター錯体を節に用いれば,構造の予想がつきやすく,設計がしやすくなるという考え方である。金属錯体には,SBUの候補となる,いくつかのクラスター錯体が知られている。また,MOF-5の合成法は,耐圧容器中で加熱する水熱合成法(Solvothermal Synthesis)である。それまでのMOFは,常温常圧のマイルドな条件下で得られる,自己組織化法 (混ぜて自然にできあがる結晶構造)で合成されており,激しい条件下で合成すれば,有機配位子が分解するなどして,予期せぬ反応が進行すると思われていた。しかし,現在報告されているMOFの多くは水熱合成法で合成されており,MOF-5は,そのさきがけとなっている。さらに,MOF-5は,テレフタル酸のベンゼン環部位に,官能基を導入した有機配位子でも,同様の基本骨格を形成可能であり,有機配位子の長さを変えることで細孔サイズを,官能基を導入することで細孔の性質を制御可能であることを示した12)。現在,最も大きな細孔を有しているのは,昨年報告されたMOF-200とMOF-210であり13),BET表面積は,それぞれ4530, 6240 m2/g,空隙率は90, 89% と,驚くべき数値を示している。しかし,有機配位子の長さを長くすればするほど,必ずしも大きい細孔が得られる訳でなく,細孔を埋め合うように骨格が相互貫入(インターロック)してしまうこともある。

5. MOFの特徴

MOFを紹介するほとんどの解説書は,MOFの利点しか述べていない。例えば,有機配位子の長さを変えれば,細孔サイズを制御することができ,あたかも,細孔を思いのままデザインできるかのように説明されている。しかし,ここでは,あえて,MOFの欠点を述べてみたい。劣っている点を知ることで,なぜ,即,実用化に結びつかないのかを,イメージしやすいと考える。まず,大部分のMOF,特に大きな細孔をもつものは,水に弱い傾向がある。これは,H2O分子が配位子として,骨格を形成する金属に配位しやすいためである。もともと配位していた有機配位子の替わりに,外気のH2O分子が,骨格内部に侵入して,置換して配位するため,全体の結晶構造は歪む,もしくは崩壊してしまう。そのため,MOFは湿気が多い場所での長期保存には向かないことが多い。

さらに,MOFは300°Cくらいで熱的に分解するものが多い。一般に,金属錯体の熱分析を行うと,300°C近辺の温度で,有機配位子が焼け飛んでいく様子が観測される。MOFにおいても同様であり,高温での取り扱いには向かないことが多い。また,ゼオライトのように共有結合で形成される場合は,双晶による膜化など,形状を変えることが可能であるが,MOFは,いくつかの膜化の報告例があるものの14,15),実際は難しい。それは,MOFの骨格を形成する配位結合は,平衡(溶液中で解離と結合を繰り返す)の結合であり,柔軟な結合であるためである。それゆえ,MOFの結晶構造は柔らかな骨格で,包接する分子に応答して細孔の形状を変化する,珍しい多孔体として認知されつつある3)

6. 柔軟な細孔をもつMOF

柔らかい骨格構造をもつと認知されつつあるMOFであるが,柔軟な細孔を示す顕著な例は,その吸着等温線にある。IUPACが定める吸着等温線は,細孔の大きさや性質,吸着質の種類に応じて,Type-Ⅰから-Ⅵまでの6種類に大別されている(図5)。しかし,MOFの場合,この6種類に当てはまらない吸着等温線を示すことがある。今まで確認されている例外は,大きく2つある。その1 つは,図5に示すように,低圧域では全く吸着しないが,ある圧力で急激に吸着を開始し,飽和へと向かう吸着等温線である。また,脱着曲線ではヒステリシスを示す。この吸着開始圧は,ゲート圧(gate pressure)として定義されている16)。このような特徴的な等温線は,ゲスト分子の蒸気圧に応じて,骨格が非多孔体から多孔体へと変化することに由来している。つまり,ゲスト分子の吸脱着に伴い,規則的に結晶構造が動いて,細孔が開閉していることを意味している。もう1つは,等温線にステップをもつ,2段階吸着等温線である。この吸着等温線では,まず,低圧域で吸着し,圧力の増加とともに飽和吸着量へと向かうが,ある圧力で不連続な吸着量の増加を伴う。この2段階吸着等温線でも,結晶構造の変化が伴うと考えられているが,MOFの種類によって吸着機構が異なるなど,まだ研究例が少ない。最近,我々は,ジャングルジム型多孔性配位高分子と呼ばれるMOF, [Zn2(1,4-bdc)2(dabco)]n(1, H2(1,4-bdc)=1,4-benzenedicarboxylic acid, dabco=1,4-diazabicyclo[2,2,2]octane)で,2段階吸着等温線を示すことを見出した17,18)。その結果を,ここで紹介する。

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図5 IUPACが定める6種類の吸着等温線(左) と,MOFでの特徴的な吸着等温線(右)

1は,亜鉛ランタン型錯体をベースに,ジカルボン酸系配位子とジアミン配位子で構成され,規則的な三次元構造を形成している(図6)。構造内には7.5×7.5 Å2 の1次元の均一細孔を有している19)。この1での,308 K, IPA(イソプロピルアルコール)吸着では,低圧域で鋭く立ち上がるType-Ⅰ型で,1細孔当たり3分子のIPAを吸着した後,2.13 kPaを開始圧に,さらなる1.5分子のIPAを取り込みながら飽和へと向かい,{[Zn2(1,4-bdc)2 (dabco)]·4.5IPA}n(1⊃4.5IPA) となる(図6)。脱着も2段階で進行し,ヒステリシスを示す。粉末X線回折によって,吸着過程を追跡すると,1段階目の吸着が完了した{[Zn2(1,4-bdc)2(dabco)]·3IPA}n(1⊃3IPA)は,1 と1⊃4.5IPA とは別の結晶相であることがわかった。また,それぞれの結晶格子パラメーターを見積もると,1細孔当たりの体積は,1: 1147 Å3, 1⊃3IPA: 904 Å3, 1⊃4.5IPA: 1135 Å3であり,1→1⊃3IPA→1⊃4.5IPA の吸着過程は,1⊃3IPAで,骨格収縮を伴うことがわかった。すなわち,1は,1細孔当たり3分子のIPAが吸着すると,骨格が著しく収縮し,再び元の細孔に戻りながら飽和に達する吸着過程であることがわかった。一般に,MOFの骨格変化を伴う吸着では,ゲスト分子による骨格を押し広げながらの吸着が,よく観測されるが,1のIPA吸着では,1段階目の吸着で,骨格が高度に収縮する独特の変化がみられた。このような吸着機構は,MIL-53と呼ばれるMOFでも見出されており,Férey教授によって,Breathing Effect(呼吸のような効果)と名づけられている20)

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図6 [Zn2(1,4-bdc)2(dabco)]n(1) のイソプロピルアルコール(IPA)吸着等温線

温度を変えても,1のIPA 吸着における,2段階吸着等温線のプロファイルは変わらない。温度を高くすると,2段階目の吸着開始圧が大きくなり,0.51 (288), 1.08 (298), 2.13 (308), 4.24 (318), 8.12 kPa (328 K) となった。この2段階目吸着開始圧を,1⊃3IPA+1.5IPA↔1⊃4.5IPAの平衡圧と考え,クラウジウス-クラペイロン式に従って,吸着エンタルピーを算出すると,−81.6 kJ/mol であった。一方,1+3IPA↔1⊃3IPAにおける吸着エンタルピーを,DSC測定から,−69.6 kJ/molと見積もった。1段階目より2段階目の方が,半分量のIPAしか吸着していないにもかかわらず,吸着エンタルピーは2段階目の方が大きい。その理由の1つとして,MOF中の細孔壁と吸着質であるIPAの間で,化学的な相互作用が働いているためと予想される。そこで,その他の吸着質による吸着分析と,官能基を導入したMOFを用いて,置換基効果について検討した。

1において,EtOHとMe2CO吸着測定をしたところ,EtOH吸着では,IPAと同様に,1→{[Zn2(1,4-bdc)2(dabco)]·4EtOH }n(1⊃4EtOH)→{[Zn2(1,4-bdc)2(dabco)]·6EtOH}n (1⊃6EtOH)の2段階吸着を示した21)。一方,Me2CO 吸着では,1→{[Zn2(1,4-bdc)2(dabco)]·5Me2CO}n(1⊃5 Me2CO) の,Type-Ⅰ型の1段階吸着を示した。つまり,吸着質がアルコールのときのみ,2段階吸着が発現することから,2段階吸着にはOH 基が関与していると考えられる。次に,1のEtOH吸着とMe2CO吸着において,温度依存性を追跡した。288~328 Kの温度範囲では,いずれも吸着等温線のプロファイルに変化はなく,EtOH吸着では,0.73 (288),1.29(298),1.81 (308), 2.94 (318), 4.55 kPa (328 K) と,温度が上がるとともに,2段階目吸着開始圧が増加した。IPA吸着と同様に,吸着エンタルピーを求めると,1+4IPA↔1⊃4EtOHで−71.2 kJ/mol, 1⊃4EtOH+2EtOH↔1⊃6EtOHで−70.4 kJ/molであり,EtOH吸着でも2段階目が比較的大きいこわかる。Me2CO 吸着の場合,全吸着エンタルピーは−127.5 kJ/molであり,IPA吸着とEtOH吸着と比較すると,ほぼ同程度の大きさであった。

次に,1のベンゼン環部位に官能基を導入し,吸着等温線に及ぼす影響を検討した。1の合成法を参考に,3種類の新しいMOFを合成した。有機架橋配位子(ジカルボン酸系配位子)としてnitrobenzenedicarboxylic acid (=H2(1,4-bdc-NO2)), bromobenzenedicarboxylic acid (=H2(1,4-bdc-Br)),2,5-dichlorobenzenedicarboxylic acid (=H2(1,4-bdc-Cl2))を,それぞれ,硝酸亜鉛とdabcoとともにDMFに懸濁し,耐圧容器を用いて120°Cで48時間加熱することで,{[Zn2(1,4-bdc-NO2)2(dabco)]·xDMF}n(2⊃xDMF), {[Zn2(1,4-bdc-Br)2 (dabco)]·xDMF}n(3⊃xDMF), {[Zn2(1,4-bdc-Cl2)2(dabco)]·xDMF}n(4⊃xDMF)を得た21,22)。単結晶X線構造解析の結果,2⊃xDMF, 3⊃xDMF, 4⊃xDMFのいずれも,1と同型の規則的な3次元構造を形成し,官能基が導入されていることを確認した(図7)。また,いずれも,加熱真空乾燥によって,合成時に吸着したDMF分子を除去でき,粉末X線回折によって,除去後の化合物(2-4)が骨格を安定に維持していることを確認した。

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図7 (a) {[Zn2(1,4-bdc-NO2)2(dabco)]·xDMF}n(2⊃xDMF), (b) {[Zn2(1,4-bdc-Br)2(dabco)]·xDMF}n(3⊃xDMF), (c) {[Zn2(1,4-bdc-Cl2)2(dabco)]·xDMF}n(4⊃xDMF)の結晶構造図

次に2-4に対して,吸着質にMeOH, EtOH, IPA, Me2COを選んで吸着測定をした。図8に,その測定結果を示す。いずれも,吸着質のサイズが大きくなるにつれ,吸着量が減少した。興味深いことに,1-4で段階的吸着が見られたのは,1のアルコール(MeOH, EtOH, IPA)吸着と,2のMeOH吸着であった。2のMeOH 吸着では,P/P0=0.6までに,1細孔あたり6分子のMeOHを吸着し,さらに2分子のMeOHが段階的に吸着している。この現象は,異なる温度での吸着等温線でも確認され,確かに吸着過程において中間状態が存在する。以上の結果を考慮すると,官能基を導入した2-4のアルコール吸着では,1段階目の吸着サイトを,2-4中の官能基が阻害し,中間状態へ変化させないことが考えられる。しかし,2では,最もサイズの小さいMeOHのみが,1段階目吸着サイトに吸着でき,中間状態を誘起すると考えられる。おそらく,1段階目吸着サイトは,ジカルボン酸系配位子のカルボン酸部位と考えられ,吸着質のOH と水素結合を形成することで,骨格が歪み収縮した中間状態を誘起し,2段階吸着が発現すると考えられる(図9)。

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図8 (a) 1, b) 2, (c) 3, (d) 4 における,MeOH (青),EtOH (緑),IPA (黒),Me2CO (赤)吸脱着等温線(298 K, ●:吸着,○:脱着)。

ただし,3 と4 におけるEtOH吸脱着等温線は,それぞれ,308 K と318 Kで測定。

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図9 1-4 の1段階,2段階アルコール吸着のメカニズム

7. ZIF とCOF

MOFを提唱したYaghi教授は,新たに,COF(covalent organic frameworks)を提唱した23)。COFは,共有結合のみで形成される結晶性の高分子であり,MOFの骨格では節に金属を利用していたが,COFではボロン酸を用いている。MOF同様,COFも骨格内に細孔を有する。金属を使っていないため軽量化し,さらに,成型加工に優れているのではないかと筆者らは考えている。さらに,Yaghi教授は,ゼオライト骨格を担うSi–O–Si 結合と,ほぼ同じ角度をもつMetal-imidazolate-Metal を用いたMOFを,ZIF(zeolitic imidazolate frameworks)と名づけた24)。ZIFは,ゼオライトと同じネットワーク構造を有するMOFを意味し,imidazolate環に官能基を導入することが可能で,細孔の性質を変えることができる。また,ハイスループット法と呼ばれる,合成と結晶構造の分析をオートマチック化し,あらゆる結晶化条件を探索/最適化できる方法を,MOF(ZIF)に導入した。

8. 最後に

以上,簡単ではあるが,MOFの長所と欠点を,時系列に述べた。より一層詳しく知りたい方は,英語のレビュー2–4)を参照して頂きたい。現在,MOFの研究が学術誌を賑わせているが,1990~2000年初めのような,インパクトの大きい結果は少なくなってきた感がある。おそらく,それは,MOFが,成長期を経て,成熟期を迎え,応用へと向かっているためではないだろうか。これからのMOFは,応用研究と技術改良を中心に発展していき,マテリアルとしての側面がより一層深まっていくと予想している。

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