日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 28(1): 2-9 (2011)
doi:10.20731/zeoraito.28.1.2

解説解説

イオン交換性無機層状化合物が有する2次元ナノ空間を利用した無機-有機複合型吸着・検知材料Inorganic-Organic Hybrid-Type Materials for Adsorption and Detection Prepared by using 2-Dimensional Nano-Space of Ion Exchangeable Inorganic Layered Compounds

島根大学総合理工学部物質科学科Department of Materials Science, Interdisciplinary Faculty of Science and Engineering, Shimane University ◇ 〒690-8504 島根県松江市西川津町1060

受理日:2010年12月20日Accepted: December 20, 2010
発行日:2011年3月10日Published: March 10, 2011
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粘土の層間をイオン性有機化合物で修飾することにより得られる有機修飾粘土は,用いる有機化合物の有する機能を粘土に付与できる点で古くから注目され,研究開発が進められてきた。近年,粘土以外の層状無機化合物をホストとして利用できるようになったことから,発現できる機能のバリエーションも増えるとともに,その機能も高度化できる可能性が広がっている。本稿では,特に近年注目されている環境浄化ならびに環境モニターのために材料に要求される機能である「分子吸着」と選択性の付与,さらに分子吸着を外部信号として発信できる材料の創出に向けた研究・開発の動向を紹介する。これらに加えて,著者らが近年研究・開発を進めている層状無機化合物である粘土およびチタン酸ナノシートをホストとして有機色素を複合化することにより得られる発光性固体材料へ水分子やアンモニア分子が吸着することにより誘発される発光特性変化について,その発光変化のメカニズムとセンサーとしての可能性を紹介する。

Organo-clay, which is prepared by modifying clay interlayer by various organic ions, attracts attention from old time, and has been investigated and developed by many researchers because various functional organic ions can be hybridized with clay. It can be expected that broad variety of functions can be enhanced, and that functions can be upgraded, since not only clay but also various layered inorganic compounds can be used as host materials, recently. In this paper, recent movements on researches and developments of advanced materials with molecular selective adsorption and detection abilities, which are required for environmental clean-up and monitoring materials, are introduced. Additionally, luminescence change induced by adsorption of water and/or ammonia molecules to highly luminous solid material, which is recently prepared by hybridizing luminous organic dyes with layered inorganic compounds such clay and titanate nano-sheet, is introduced. And, the mechanism of luminescence change by molecular adsorption and possibility of the present materials as chemical sensor is also introduced.

キーワード:有機修飾層状化合物;分子吸着;分子検出;層状無機/有機複合型発光固体材料;発光検知材料

Key words: organic modified layered compound; molecular adsorption; molecular detection; layered inorganic/organic hybrid luminous solid material; luminous detection material

1. はじめに

粘土に代表されるイオン交換性無機層状化合物は,ナノオーダーの層厚をもつ酸化物や水酸化物の結晶性シートが交換性イオンを介して積層した構造をもつ結晶性化合物である。層間に存在する交換性イオンは,無機イオン種だけでなく有機イオン種ともイオン交換可能であるため,古くから両親媒性分子などの有機イオンとの複合化が検討されてきた1–3)。近年では,様々な機能(光学的・電磁気的機能)を有する有機イオンとの複合化が検討され,固体化・機能の異方性発現・複合化特有の新規機能の発現が多くの研究者により精力的に進められている3–7)

無機層状化合物と有機イオンとの複合化(有機修飾)は,イオン交換性無機層状化合物の層間の特性(疎水度や反応性など)の能動的な制御と捉えることもできる。例えば有機修飾粘土は,粘土を有機溶媒中へ安定に分散させることを目指して開発された材料で,粘土の層間を界面活性剤で修飾することにより得られる。この材料は,有機溶媒中で顕著な膨潤挙動を示す。したがって,層間へ有機溶媒分子を吸着し,有機修飾粘土が様々な媒体中の有機溶媒分子を効率よく吸着・除去する材料となる可能性を示す。有機修飾粘土をはじめとする有機イオンと層状化合物との複合材料のこのような特性は,近年ますます注目されるとともに,環境の清浄化に対する世間の意識の高まりと相まってさらなる高機能化が切望されている。

有機修飾した層状化合物による有機溶媒分子の吸着における最も特徴的な点は,有機溶媒分子を層間に取り込む場合に,積層方向の距離(層間距離)が変化することにある。このような現象は,吸着剤として現在用いられているゼオライト,活性炭やメソポーラスシリカなどの多孔性材料には見られないものである。この積層方向の柔軟性は,有機修飾の仕方によってはゼオライトや活性炭やメソポーラスシリカなどで吸着・除去が困難なターゲット分子を吸着・除去できる材料を創製できることや,層間距離を能動的に制御すれば一つの物質系でさまざまな大きさの分子をふるい分けできるような材料が実現できる可能性を示している。最近では単に吸着・除去できるだけでなく,有機分子の吸着を層状化合物自身の特性変化や共存させておいた分子の物性変化により検知できる材料や,吸着した分子を無害な物質(例えば,二酸化炭素や水など)に層間で分解・浄化できるような材料が報告されるようになってきた7)。さらに,帯電層を有する多くの金属酸化物や金属水酸化物のナノシートコロイド懸濁液の調製が可能になったことから,粘土のような絶縁体をホストとして用いるだけでなく,半導体性を有する化合物,光に対して活性な化合物や磁性を有する化合物などを用いて層自身の機能も利用した材料を創製できる状況になってきた6)

本稿では,このように有機修飾層状化合物のバリエーションが増え,機能の発現もより高度化できる可能性が広がっている状況を踏まえ,特に環境浄化・環境検知機能に注目して行われた研究の現状を紹介するとともに,それに基づき著者らが最近注力している層間に固定化した発光性色素の発光挙動変化により分子検知の実現を目指した研究の一端を紹介する。

2. 有機修飾粘土による有機分子の吸着

有機修飾粘土の多くは,長鎖アルキル鎖を有するイオン性界面活性剤が挿入されているため,層間は非常に疎水度の高い状態となっている。そのため,無極性および低極性有機分子をターゲットとした研究が多い。これらの系では,イオン性界面活性剤が形成する自己組織化構造に基づく強い疎水場が層間に形成されているために,無極性および低極性有機分子に対する親和性が非常に高く,吸着のターゲットの種類・形・サイズなどによらずさまざまな無極性および低極性有機分子を効果的に気相や液相から吸着・除去可能であり,とにかく環境を浄化したいという場面では効果的な吸着剤である。一方,化学工業プロセスなどで重要な現象となる吸着・分離の実現という観点では,この高い親和性が仇となり,選択的な吸着による分離を実現することは非常に困難である。

この欠点を解消する一つの方法として,層間修飾に用いる有機イオンのサイズ,嵩高さ,修飾量を調節することで,層間の疎水度や余剰空間のサイズを精密に制御し,ゼオライトや酸化物ピラー化粘土などが有する特性である分子篩効果を付与しようとした研究が行われている。例えば,Lawrenceら8)は,層間有機修飾剤としてtetramethylphosphoniumを用いmontmorilloniteをホストとした有機修飾粘土によるフェノール誘導体の液相吸着について検討した。その結果,この系では層間に形成されるスリット型の余剰空間と分子のサイズならびに形状のマッチングにより,選択的な吸着挙動が観測されることが明らかとなっている。また,石井ら9)は粘土層間にビフェニレンにより細孔を形成することによりトルエンの吸着能力を飛躍的に向上させることに成功している。この系では,ビフェニレンとトルエンとのπ-π相互作用の重要性も考察されているが,メカニズムの詳細はいまだ明らかにされていない。ここに二つの例を示したが,層間を有機修飾することにより選択的な分子吸着を実現するための材料設計指針についてはいまだ不明な点が多く,その理由として,(1)層間疎水場とターゲット分子との相溶性の定量化指標がないこと,(2)有機修飾分子と層が形成する余剰空間の特性の評価方法の確立などが挙げられる。これらに関しては,今後実験と理論の両面からのアプローチが必要不可欠となろう。

3. 有機修飾粘土吸着剤の多機能化

私たちの生活空間や作業空間の清浄化に対する過剰ともいえる意識の高まりから,これらの空間中に存在しうるさまざまな有害物質の効率的な除去が望まれる昨今,前述したような吸着・除去のみに特化した材料だけではなく,(1)従来の吸着剤のように吸着が飽和することで機能しなくなるのではなく,吸着した物質を無害化し排出することで半永久的に空間清浄できる材料や,(2)その空間に有害物質が存在した場合にそれを高感度かつ迅速に検知し知らせる機能を有する材料が必要となる。(1)については,吸着した有害物質の分解反応を促す素材,例えば光触媒分解能を有するチタニアを粘土層間に固定化した多孔性材料の作製とその吸着・分解活性に関して多くの研究者が報告しているので,そちらを参考にされたい3,10)

しかし,ピラー化粘土は焼成により作製することで粘土の重要な機能の一つであるイオン交換性を失う。これに対して著者らは,粘土としてmontmorilloniteを用い,ゾルゲル反応と薬剤酸化反応を利用し,粘土のイオン交換能を保持したままで微結晶チタニアを層間に取り込むことにより,粘土層間の更なる有機修飾を可能にした。これにより従来のチタニアピラー化粘土とは異なり,疎水性相互作用が利用できるようになり,従来のものよりも高い吸着能を実現できた11)。さらに著者らの系では光増感色素も容易に挿入可能である。実際に耐光性の高いフタロシアニン色素を導入することにより,可視光照射下で吸着した有害分子の光分解能を有する材料の創製にも成功している22)

(2)として示したある特定の化学物質を検知するための材料では,化学物質を吸着する部位と材料中に化学物質が吸着したことを物理信号(何らかの物性変化)に変換する部位とを,材料中で共存・連動させる必要がある。そのような材料を実現するために,(a)吸着部位に選択性を付与する方法と(b)特定の化学物質によってのみ物性変化を示す部位を組み込む方法の二通りの材料設計が考えられる。(a)では,ターゲットとする化学物質の特性を考慮した層間の特性や立体構造の精密な制御が必要となる。前項で紹介した有機分子ピラーによる分子篩効果の発現などが一つの例である。この場合,吸着の有無を知らせる物性変化はどんなものでも構わないことになる。もっとも単純な物理量変化として重量変化が挙げられる。最近では水晶振動子を用いた高感度リアルタイムモニタリングも可能となってきている。実際に白鳥ら12,13)は,水晶振動子上に層状α-リン酸ジルコニウム多孔性膜を作製することにより重量変化によるガスセンサーを報告している。最も認知されており研究開発の盛んな半導体ガスセンサーに選択性を導入しようとする研究も見られる。半導体表面を修飾し分子選択性を付与するとセンサー感度が下がる場合が多いが,伊藤らは半導体として還元処理によりイオン交換性を付与した層状モリブデン酸ナトリウムを用い,その層間にポリアニリン誘導体を複合化することにより,アルデヒド類が吸着した場合にのみ大きな抵抗変化を示す材料の創製に成功している14,15)

(b)の方法の代表的な例は,酸化スズを用いた還元性ガスセンサーである。還元性化学物質と酸化スズ表面の酸素が反応することで,酸化スズの電気伝導性が変化することを利用したものである。しかし,この系では精密な分子選択性を発現させるのは困難である。高い分子選択性の実現を目指し,近年物性変化として光学特性を利用したものが報告されている。例えば,小川らは陽イオン交換粘土の層間にビオロンゲン誘導体,ルテニウムビピリジル錯体やユーロピウムイオンを導入した複合体により分光学的な特性変化により化学物質の検知に成功している16–19)。これらの系では,吸着した化学物質が層間の発色団と光化学的に反応することで分光学特性が変化すると結論づけられている。一方著者らは,これまでに発光変化を検出プローブとして,吸着した化学物質と発光部位との相互作用を利用した物質検知が可能な無機層状化合物を有機分子とのハイブリッド材料の創製に成功している。次項では著者らの最近の成果を紹介する。

4. イオン交換性無機層状化合物と発光性色素のハイブリッドによる分子検知21–22)

著者らは,通常固体化により発光性を失う易会合性発光性色素であるローダミン系色素を粘土などの層状化合物層間にイオン交換反応により両親媒性陽イオンとともに導入することで,発光量子収率約80%という高い値の固体発光材料の創製に成功している23)。この系で用いたローダミン系色素(ローダミン3B,以下R3B)は,水溶液中でpHの増加に伴い,強発光性の陽イオン型から無発光性のラクトン型に分子内環化反応により変化する(図1)。この分子内環化反応を複合系の層間で誘発することができれば,この複合系は塩基性ガスの検知能力を有することとなる。イオン交換性無機層状化合物としては,ラポナイト(Lap:陽イオン交換容量(CEC)=0.77 meq./g, Rockwood 社製)とチタン酸セシウム(Cs-LT: CsxTi2−x/4□x/4O4 ((x=0.7,□:チタン空孔):CEC=4.12 meq./g)を用いた。試料調製は,イオン交換性無機層状化合物のナノシートコロイド懸濁液に,デシルトリメチルアンモニウム(C10TMA)およびR3Bを含む水溶液を加え撹拌後,生成した沈殿をろ過にて回収した後,乾燥させることで行った。成分分析の結果,Lapをホストとしたハイブリッド(Lap/C10TMA/R3B)中にはCEC の約70%のC10TMAとCECの約0.05%のR3Bが,チタン酸(以下TNS)をホストとしたハイブリッド(TNS/C10TMA/R3B)中にはCECの約50%のC10TMAとCECの約0.02%のR3Bが,それぞれ含まれることが明らかとなった。

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図1 ローダミン色素のpH変化に伴う分子内構造変化

これらのハイブリッドはどちらもR3B陽イオン単量体由来の発光を示し(図2),その発光量子収率はLap/C10TMA/R3Bで約80%,TNS/C10TMA/R3Bで約70%と高いものとなった。また,XRD測定の結果から(図3),両者ともに層間距離の増加が観測され,層間に有機物質を複合化できたことが明らかとなった。このような特性を示すハイブリッド材料に対して,水蒸気存在下での吸着ならびに特性評価を行った。図3に水蒸気を吸着させた前後のXRDパターンを示す。Lap/C10TMA/R3Bでは層間距離の変化は観測されなかったが,TNS/C10TMA/R3Bでは層間距離の拡張が観測された。このことは水蒸気の吸着によるハイブリッドの構造への影響がホスト層の種類により異なることを示唆する。TNS/C10TMA/R3Bの方がLap/C10TMA/R3Bより多くの水蒸気を吸着していたことから,TNS/C10TMA/R3Bの層間距離の増加は,多量の水蒸気の吸着により引き起こされたものと考えられる。さらにTNS/C10TMA/R3Bについては,各湿度下でのXRD測定を実施した。層間隙(XRDから求めた底面距離から層厚を差し引いた値)の湿度依存性を図4に示す。低湿度下での急激な層間隙の拡大の後,40%以上で湿度の増加に伴い緩やかな拡大が観測された。この結果は,TNS/C10TMA/R3B中に少なくとも吸着平衡定数の異なる二種類の水分子吸着サイトがあることを示唆する。

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図2 乾湿変化に伴う発光スペクトルの変化

上段: Lap/C10TMA/R3B,下段: TNS/C10TMA/R3B,実線:乾燥試料,○:湿潤試料。

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図3 乾湿変化に伴うXRDパターンの変化

実線:乾燥試料,○:湿潤試料。

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図4 TNS/C10TMA/R3Bの層間隙の湿度依存性

図2に乾燥状態と水分子を飽和吸着させた試料の発光スペクトルを示す。Lap系では大きな発光変化は観測されなかったものの,TNS系では発光ピークのブルーシフトが観測された。この結果は,XRDの場合と同様にハイブリッド中への水の吸着量の違いにより引き起こされたものである。水分子を飽和吸着させたTNS系で観測された発光スペクトルのピーク波長が水溶液中でのR3B陽イオン由来の発光ピーク波長とほぼ一致したことから,水の吸着が起こることにより層間のR3B陽イオンは水溶液中と同様に大きな束縛を受けない状況にあると考えられる。このことは,少なくともTNS 系が有する水吸着サイトの一つはTNS層表面であり,ここへ水が吸着することにより層間のR3Bと層表面に存在するイオン交換サイト間の静電相互作用が弱まったことが示唆される。

ここまで示したようにTNS 系に水が吸着するとR3B陽イオンは層間で比較的自由度の高い状態になっていることが予想される。R3B陽イオンが周囲のpHの増加により無発光性のラクトン体へ分子内環化反応により変化することを考慮すると,水分子が吸着した状態で塩基性分子を層間へ吸着させることができれば,TNS系ハイブリッド材料はその発光消光という形で塩基性分子の吸着を検知できることが予想できる。図5に乾燥状態および水蒸気存在下でアンモニア分子を吸着させた場合の発光スペクトルを示す。図から明らかなように約90%という高い消光率で発光消光が観測された。このことは,予想どおり層間が塩基性条件になったことを示す。しかし,R3B陽イオンを飽和アンモニア水中に溶解した場合にはこのような大きな消光効果は観測されない。一方で,ローダミン系色素を塩基水溶液とジメチルエーテルに加えると,ローダミン系色素はジメチルエーテルへラクトン体として溶解し退色することが知られている。この二相分離溶液を激しく振るとジエチルエーテルと水との界面が増加し,界面にてラクトン体の分子内開環反応が進行し発色する。この発色は静置後,界面の減少により速やかに退色する(カメレオン溶液)。このような色素の性質とTNS系ハイブリッドの層内の分子構成を考慮すると,水分子の吸着により層内に微小水滴部分とC10TMAにより形成される無極性空間の二相混合空間が構成されていると考えられる。したがって,ハイブリッドの顕著な消光は,図6に示すように水分子が吸着することにより層表面との静電相互作用から解放されたR3B陽イオンが吸着水にアンモニアが溶け込むことにより塩基性条件に曝され,分子内環化反応によりラクトン体に変化するとともに,中性分子であるラクトン体がより安定に存在しうるC10TMA が形成する無極性空間に移動したためと解釈することができる。

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図5 TNS/C10TMA/R3B の発光スペクトル

実線:乾燥試料,○:水蒸気存在下でアンモニア分子を吸着させた試料

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図6 TNS/C10TMA/R3Bに水とアンモニア分子が吸着した場合に起こる顕著な消光現象のメカニズム

ここまでにTNS系ハイブリッドが水蒸気および水蒸気存在下での塩基性ガスの検知能力を有していることが明らかとなった。図7に湿度50〜60%の条件で発光強度のアンモニア濃度依存性を示す。また,図8に同条件での発光変化の繰り返し回数依存性を示す。TNS系の発光強度がアンモニア濃度依存性を示したことから,本TNS系材料が水蒸気存在下でアンモニアガスを定量検知可能な材料であることが明らかとなった。また,TNS系材料を乾燥条件と水蒸気とアンモニアを共存させた条件とに繰り返し暴露した場合でも良好な繰り返し耐久性を示すことが明らかとなった(図8)。これらの結果から,今後膜化などのデバイス構築法の確立は必要であるものの,検知デバイス用の素材としての可能性がある。

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図7 TNS/C10TMA/R3Bの発光強度のアンモニア濃度依存性

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図8 水蒸気存在下でのアンモニア吸着に対するTNS/C10TMA/R3Bの吸着・脱着繰り返し操作に伴う発光強度変化

□:乾燥状態,○:アンモニア吸着状態。

5. 最後に

本稿では,有機修飾した層状無機化合物の層間を用いた「分子吸着」や「分子選択性」の実現のために行われてきた材料開発の動向と,著者らの最近の試みとその成果を紹介した。目標達成のためには,有機修飾層状化合物の基礎的な情報(層内の空間特性の定量評価法の確立や,構造と化学物質吸着の相関関係など)を積み重ねていく必要があるが,従来の分子篩的な考え方だけでなく,生体システムの組み込みなどまだ多くの行われていないもしくは,知られていない材料設計手法も存在するだろう。また,検知のための物性変化についても著者らは発光変化による材料の実現を目指しているが,これに限ることなくいろいろな物性ならびに構造変化を利用できる可能性が高い。現状ではまずは様々な系を作製し,それが示す特性を一つ一つ詳らかにするとともに,これらの蓄積情報をまとめ俯瞰することにより最終的には物質設計の基本的な考え方の確立を目指していきたい。

謝辞Acknowledgments

さまざまな湿度下でのXRDおよび重量変化を測定していただいた(独)物質材料研究機構の井伊伸夫博士にこの場をお借りして御礼申し上げます。また本研究の一部は,JST地域イノベーション創出総合支援事業重点地域研究開発促進プログラムH19年度シーズ発掘試験「発光性色素/粘土ハイブリッド固体材料を用いた温湿度センサーの開発」の支援を受けて行ったものです。この場をお借りして御礼申し上げます。

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