The 21st International Zeolite Conference参加報告
東京大学 小倉研究室
© 2025 一般社団法人日本ゼオライト学会© 2025 Japan Zeolite Association
2025年7月14日から18日にかけて,中国東北部の大連市にて,第21回国際ゼオライト学会(21st IZC)が開催されました。大連は海に面した都市であり,港湾・工業・観光の面で知られる地域です。会場近くの海は美しく,西洋風の建築物が多く立ち並び,夜景も魅力的でした。特に,海産物が名物として有名で,現地の料理も印象的でした。
21st IZCでは,合計602件の発表が行われ,その内訳は口頭発表が295件,ポスター発表が307件でした。ゼオライト,MOF,COFを中心とした様々な研究が発表されました。
研究テーマは大きく14の分野に分類されており,例えば,Synthesis and Modification, Structure and Characterization, Catalysis, Theory and Modelling, Adsorption, Separation and Diffusionなどが挙げられます。口頭発表の中で興味を持った発表が2つあり,いずれも放射性物質を除去する自身の研究分野と深く関係していました。
1つ目は,Soochow UniversityのShuao Wang先生による「Radiation synthesis of crystalline porous materials」についての発表です。発表内容は,MOFを用いて標的物質と材料の間に強い結合を形成するための結合サイトの設計や,その結合サイトを制御することで,放射性物質であるストロンチウム-90,テクネチウム-99,ラドン-222,クリプトン-85,キセノン-133を除去する研究,さらに放射線を照射することでNa-AおよびZIF-8の合成を目指す研究でした。現在取り組んでいる自身の研究は,ゼオライトを用いて放射性ストロンチウムを除去することを目的としているため,MOFを用いた放射性物質の除去方法は印象的でした。特に,放射性物質に対して高い吸着性能を有し,構造を制御することで多様な機能を実現できる点は,結晶骨格が比較的固定され構造調整が難しいゼオライトでは困難であった課題に対応できるため,興味深かったです。さらに,ゼオライトと比較して,MOFは細孔径や化学的性質を柔軟に調整できるため,応用の幅広さに驚きました。一方,MOFはゼオライトに比べて熱的安定性や長期耐久性に劣るという課題もあり,この点を解決することが今後の放射線を伴う高温環境下での実用化に向けた重要な課題であると考えました。こうした課題を解決できれば,将来的に放射性物質除去技術の発展に大きく寄与する可能性があると感じました。
放射性ストロンチウムだけでなく,トリチウム(三重水素)の分離技術に関する内容も非常に興味深いものでした。現在のALPS(多核種除去設備)においては,トリチウムの除去は困難とされています。その理由は,トリチウムが水分子中の水素原子として存在しており,化学的性質が通常の水(H2O)とほぼ同一であるためです。そのため,蒸留やイオン交換といった従来の手法では効果的な分離ができず,特殊な同位体分離技術が必要とされます。そこで,Shuao Wang先生は,MOFを用いた触媒的プロトン交換を利用した新しい水素同位体分離プロセスを提案しています。具体的には,Crを含むMOFであるMIL-101(Cr)を使用して,特異なプロトン移動経路を利用することで,同位体交換におけるエネルギーを低減しました。さらに,MIL-101(Cr)を水蒸留システム(WD)に組み込むことで,従来の液–気二相交換に代わり,固–液–気の三相質量移動を実現し,熱力学的制約を解決しています。その結果,トリチウムと水分子における高い分離効率を得ることに成功しました。こうした新しい分離技術はトリチウム水の浄化において重要な役割を果たす可能性があると実感しました。従来技術ではほとんど不可能とされてきた課題に対して,新しいアプローチによって解決の手掛かりを示している点は,今後の実用化に向けた大きな進展だと感じました。
2つ目は,The University of Western OntarioのYining Huang先生による「Understanding Xe and Kr adsorption in MOFs at the atomic level using solid-state NMR spectroscopy」についての発表です。発表内容は,MOFであるα-Mg3(HCOO)6を用いてクリプトン-83およびキセノン-129の除去を目的とした研究でした。これらの元素は,化学的に不活性で常温・常圧下では気体として存在し,核分裂や核燃料の再処理過程で生成された際にも他の物質と化学的に結合しにくく,揮発性が高いため,気体として環境中に放出されます。また,α-Mg3(HCOO)6に吸着されたクリプトン-83およびキセノン-129について,固体NMRと分子動力学(MD)シミュレーションを用いて,α-Mg3(HCOO)6中における吸着サイトを同定することを目指しました。129Xe固体NMR測定の結果,観測された129Xeシグナルは同じ異方性環境を示す一定の形状を持っており,ローディング量(測定試料の量)を変えても化学シフトの位置に変化がないことが確認されました。これらの結果から,キセノンは常に同一のサイトに存在していることが示唆されます。さらに,分子動力学(MD)シミュレーションの解析によって,キセノンはMOFのリンカーの役割を果たす水素の近くに位置していることが示されました。一方,α-Mg3(HCOO)6における83Kr固体NMR測定では,幅広い83Krシグナルのパターンが観測され,クリプトンがMOF骨格と相互作用していることが確認されました。また,低ローディング条件においても未吸着の気体に由来する83Krシグナルが見られたことから,クリプトンはキセノンと比較してMOFとの相互作用が弱いことが示されました。さらに,分子動力学(MD)シミュレーションの結果,クリプトンはキセノンよりも高い移動性を有することが明らかとなりました。
Yining Huang先生の研究を通じて,同じ希ガスであっても,MOFとの相互作用の強さや拡散挙動が大きく異なることを,固体NMR測定と分子動力学(MD)シミュレーションの両面から明確に示していた点が興味深いと感じました。特に,キセノンが特定のサイトに固定される反面,クリプトンはMOFとの相互作用が弱く,より高い移動性を示すという結果は,今後のガス分離材料の設計において重要な知見であると感じました。また,実験データとシミュレーション結果を組み合わせることで,材料と標的物質の相互作用メカニズムを理解するアプローチは,自身の研究にも応用可能であり,大変参考になりました。このように,自身の研究と関連性の高い発表を拝聴する経験は,研究の視野を広げ,今後の研究方針を明確にするうえで,大変有意義な機会となりました。
21st IZCを通じて,様々な大学の先生方と交流する貴重な機会を得ることができました。指導教員である小倉先生や,同じ研究室のShuranさんを含めて,東京大学の脇原先生,脇原研究室の特任助教であるJie Zhu先生,University of Massachusetts AmherstのWei Fan先生,Tsinghua UniversityのZhendong Liu先生など,国内外で活躍されている先生の方々と直接お話しすることができ,大変有意義な時間となりました。交流の場では,自身の研究内容について説明し,研究の目的やアプローチ,得られた成果に関して意見をいただくことができました。また,先生方の専門分野における最新の研究動向や,今後注目されるテーマについて直接伺うことができ,世界的な研究の流れを理解するうえでも大変参考になりました。さらに,研究に関するディスカッションを通じて,自身の研究に改善すべき課題を明確にすることができました。今回の交流を通じて得られた知見やアドバイスは,今後の研究方針をより具体的に検討するうえで重要な指針になると感じています。このような国際学会ならではの貴重な経験は,研究者としての視野を大きく広げるとともに,将来のキャリア形成にも大きな意味を持つものであり,今後の研究活動に積極的に活かしていきたいと考えています。
私の口頭発表は,7月18日(金)の最初のセクションで行われ,「Adsorption, Separation and Diffusion」に関連する発表の1つとして位置づけられていました。発表タイトルは「Elucidation of Cs+ ion exchange behavior using various types of zeolites」です。研究背景として,2011年の福島第一原子力発電所事故により放射性セシウムが環境中に放出され,放射性物質の除去は課題となっています。ゼオライトはセシウムに対する高いイオン交換容量,優れた構造安定性を有し,さらに国内での安定供給が可能であることから,放射性セシウム除去に広く利用されています。しかし,セシウムイオン交換挙動は,ゼオライトの骨格構造,SiO2/Al2O3比,OSDA(有機構造規定剤)の違いなど,様々な要因によって影響を受けることが報告されています。そこで本研究では,骨格構造とSiO2/Al2O3比,OSDAが異なるゼオライト(LTA, FAU, MOR, MFI, CHA)を用いて,セシウムイオン交換挙動を検討しました。その結果,セシウムと高いイオン交換挙動を示すゼオライトの特徴として,Na型ゼオライト,8員環を有するゼオライト,そしてSiO2/Al2O3比が高いゼオライトであることが明らかになりました。これらの知見は,セシウム除去のための吸着材設計の最適化に寄与すると考えています。
21st IZCを通じて,様々な大学や研究機関の研究者の方々から貴重な質問やコメントをいただき,自身の研究に対する新たな視点や,今後の改善に向けた具体的なヒントを得ることができました。特に,異なる分野の研究背景を持つ研究者からの質問は,自身では気づかなかった観点を示唆するものであり,これまでの研究を再評価するとともに,新しい課題設定や研究アプローチを検討する大きなきっかけとなりました。このような経験は,今後の研究活動において多角的な視点を取り入れ,実用面と学術面の双方で価値ある成果を目指すうえで有意義な経験であったと考えています。
おわりに,21st International Zeolite Conferenceの開催にあたり,ご尽力いただいた関係者の皆様に心より御礼申し上げます。また,本学会においてディスカッションや貴重なアドバイスをいただきました多くの研究者の皆様に,この場をお借りして厚く御礼申し上げます。さらに,本学会への参加にあたり,日本ゼオライト学会より旅費・滞在費のご支援を賜りましたことに深く感謝申し上げます。今回の経験を通じて得られた知見や交流は,今後の研究活動を進めるうえで大きな糧となりました。引き続き,研究に精進し,学会の発展に少しでも貢献できるよう努めてまいります。
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