日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 42(4): 125-131 (2025)
doi:10.20731/zeoraito.42.4.125

解説解説

メソポーラスシリカ担持金属錯体によるファインケミカルズ合成Fine Chemicals Synthesis Catalyzed by Mesoporous Silica-Supported Metal Complexes

横浜国立大学大学院工学研究院Yokohama National University ◇ 〒240–8501 横浜市保土ケ谷区常盤台79–5

受理日:2025年8月5日Accepted: August 5, 2025
発行日:2025年10月15日Published: October 15, 2025
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本研究では,メソポーラスシリカ担体に固定した金属錯体触媒によるアリル化反応および1,4-付加反応において,担体の細孔径が触媒活性に与える影響を検討した。ジホスフィンPd錯体を固定したメソポーラスシリカでは,担体表面の水酸基がPd錯体とともにアリルアルコールを協奏的に活性化し,反応性が向上した。速度論的解析から,担体の細孔径が23 Åのとき,基質や活性種が細孔内で適切に集積され接触頻度が向上することが示唆された。一方,水溶媒を用いたフェニルホウ酸の1,4-付加反応では,Rh錯体と疎水性アルキル鎖を共固定することで触媒表面の疎水性が向上し,反応性が顕著に高まった。この触媒系では,担体の細孔径が小さいほどRh錯体と水との接触が疎水性効果によって抑制され,反応促進効果が最大化された。これらの結果は,メソポーラスシリカの細孔径の制御が,ファインケミカルズ合成における高選択性・高活性な触媒の設計において重要であることを示している。

This study investigates the influence of mesoporous silica pore size on catalytic activity in allylation and 1,4-addition reactions using supported metal complex catalysts. A diphosphine palladium complex (PP-Pd) immobilized on mesoporous silica exhibited enhanced activity in the allylation of a ketoester with allyl alcohol. The hydroxyl groups on the silica surface played a cooperative role with Pd species, facilitating substrate activation. Notably, kinetic studies revealed that mesoporous silica with a pore size of approximately 23 Å showed the highest activity, attributed to optimized molecular interactions and substrate accumulation within the pores. In addition, the study evaluated 1,4-addition of phenylboronic acid using Rh complexes co-immobilized with octyl groups to modulate pore hydrophobicity. Under aqueous conditions, increasing the proportion of octyl chains improved catalytic performance, indicating that higher local hydrophobicity around the Rh center reduced water interference and improved substrate access. This hydrophobic tuning was most effective with smaller pore sizes, where confinement intensified the water-shielding effect. Overall, the results highlight the importance of controlling pore size and surface functionality in mesoporous silica supports to enhance cooperative catalysis and optimize reaction environments. These findings offer valuable insights for the rational design of heterogeneous catalysts in fine chemical synthesis.

キーワード:メソポーラスシリカ;金属錯体;固定化触媒;アリル化反応;1,4-付加反応

Key words: mesoporous silica; metal complex; supported catalyst; allylation; 1,4-addition reaction

1. はじめに

メソポーラスシリカの細孔は,ファインケミカルズ合成における基質あるいは生成物となる複雑な構造の有機分子の導入・放出に十分なサイズを有しているため,液相不均一系触媒反応における触媒担体として活用されている1–5)。メソポーラスシリカの細孔内部への触媒活性点の固定化方法には,細孔壁へのAl種等の導入による酸点の発現や,表面のシラノール基(Si–OH)とのシランカップリング反応による有機分子触媒の導入,あるいは表面への金属種の直接導入による金属ナノ粒子の固定化等が挙げられる。本稿では,金属錯体触媒を主にシランカップリング反応によって導入した固定化触媒に焦点を当てる。

上述した通り,メソポーラスシリカの細孔は一般的な有機分子のサイズと比較して十分に大きいため,ミクロ孔を有するゼオライトの分子ふるい効果あるいは遷移状態規制と同様な効果による高い選択性の発現は難しいと予想される。しかしながら,メソポーラスシリカ担体の細孔径を制御することで,特異な活性・選択性が発現するという報告がいくつか存在する。Rajaらはメソポーラスシリカに不斉配位子を有するRh錯体を固定すると,α-ジカルボニル化合物の水素化反応がエナンチオ選択的に進行することを報告しており,メソポーラスシリカの細孔径によって選択性が変化することを明らかにしている6)。興味深いことに,このRh錯体を均一系で用いても不斉収率は得られない。また,Tatsumiらは右巻きあるいは左巻きのらせん状メソポーラスシリカの選択的な合成に成功し7),これを用いた立体選択的な触媒反応を報告している8)。これらの報告は,メソポーラスシリカの細孔径の制御が,ファインケミカルズ合成のための触媒反応に何らかの影響を与える可能性が高いことを示唆している。

固定化触媒の特長の一つとして,表面に存在する複数の活性点が協奏的に一つの反応に作用し,触媒反応の効率を大幅に向上させる協奏効果が挙げられる。アルドール反応の促進効果として,シリカ表面のSi–OH基と固定されたアミノ基との協奏効果が,2003年にKubotaらによって発表されて以来9),シリカ担体とアミノ基による協奏的なアルドール反応が報告されてきた10)。一方で,我々はシリカ表面における協奏的触媒作用を様々な触媒活性種やファインケミカルズ合成反応へ拡張することを目的とし,Pd錯体触媒と有機分子の協奏効果を2012年に報告し11),それ以降,多様な触媒活性種による反応が固体表面にて増幅されうることを見いだしている12)

本稿では,メソポーラスシリカに固定された金属錯体による協奏的触媒作用において,メソポーラスシリカ担体の細孔径が与える影響を中心にまとめる。本稿ではメソ細孔の定義よりも小さな2 nm以下の細孔を有するシリカ担体も取り扱っているが,便宜上メソポーラスシリカとまとめて呼称する。

2. メソポーラスシリカの調製

触媒担体として用いるメソポーラスシリカの調製には,1995年にPinnavaiaらによって報告された第一級アミンを鋳型分子とする手法13)を用いた。C8(n-オクチルアミン)からC18(n-オクタデシルアミン)までアルキル鎖長を変化させて合成することで,異なる細孔径のメソポーラスシリカが得られた。BJH法による各シリカの細孔径分布と得られたシリカの特性を図1にまとめる。細孔径は鋳型分子であるアミンの炭素鎖長に対応しており,細孔径が16–31 Åの間で変化するシリカを調製することに成功した。これらのメソポーラスシリカに加えて,より大きな細孔径をもつSBA-15や,細孔構造をもたないシリカ(SiO2(nonporous); Aerosil300)も比較のために担体として用いた(図1)。

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図1. C8–C18までの炭素鎖長をもつアミンをテンプレートに合成したシリカのBJH細孔径分布と用いた担体の細孔特性.

3. 固定化Pd錯体による求核剤のアリル化反応

3.1 固定化による反応の加速効果

調製したメソポーラスシリカ(MS)にジホスフィンPd錯体(PP-Pd)をシランカップリング反応によって固定することで,固定化触媒(MS/PP-Pd)を調製した。C12のアミンを用いて調製した細孔径23 ÅのMS(C12)から調製した固定化触媒を用いて,ケトエステルのアリルアルコールによるアリル化反応を行った14,15)。結果を図2にまとめる。MS(C12)/PP-Pdを用いると良好な収率でアリル化生成物が得られたのに対して,固定化前のPP-Pdのみを用いた反応ではほとんど生成物が得られなかった。MS(C12)を事前に焼成したものや,MeSi(OMe)3を用いて表面のSi–OH基を減らした担体を用いると,アリル化反応の収率が低下した。これらの結果から,担体表面の水酸基が,Pd錯体と協奏的にアリルアルコールを活性化する反応機構を提案する。アリルアルコールがMS表面のSi–OHに吸着する現象は,in-situ FT-IRや固体13C CP/MAS NMRでも確認された。アリルアルコールがプロトンと水素結合することでC–O結合の開裂が促進されることは均一系触媒でも報告されており16),同様な現象によって反応が促進されたと考えられる。また,メソポーラスシリカ表面に強いルイス酸性を示すAlを導入することでも,アリルアルコールの活性化が促進されることが分かった17)

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図2. MS/PP-Pdを用いるケトエステルのアリルアルコールによるアリル化反応と表面Si–OHによる反応の加速.

3.2 細孔径の違いがアリル化反応に与える影響

次に,異なる細孔径をもつMSを用いて調製したMS/PP-Pdを用いてケトエステルとアリルアルコールの反応を実施した。結果を図3に示す。この反応は塩基の添加によって促進されるが,具体的な塩基の作用としては,(i)2価のPd前駆体から活性なPd(0)種を形成させる過程と,(ii)基質であるケトエステルからのプロトン引き抜きを促進していると考えられる。無溶媒条件にて,塩基として1,8-diazabicyclo[5.4.0]-7-undecene(DBU)あるいはK2CO3を用いるとアリル化反応は良好に進行し,MS(C12)/PP-PdとDBUを用いる条件ではPd基準の触媒回転数が1200を超えた18)。また,図3からわかる通り,DBUを用いる反応では触媒活性が担体であるMSの細孔径に依存しており,23 Åの細孔をもつMS(C12)において触媒活性は最高値を示し,それよりも細孔径を縮小あるいは拡大すると,反応性の低下が確認された。一方で,K2CO3を用いたときは,いずれの細孔径のMSを担体に用いても,ほぼ同程度の触媒回転数(TON)でアリル化反応が進行した。

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図3. 種々の細孔径の担体から調製した固定化Pd錯体触媒を用いるアリル化反応における1時間当たりの触媒回転数.

DBUを用いた際の触媒活性の細孔径依存の要因を解明するため,異なる細孔径をもつMS/PP-Pd触媒それぞれにおいてアレニウスプロットを作成し,活性化エネルギーと頻度因子を求めた18)。結果を図4にまとめる。ケトエステルへのアリル基の導入は逐次的に進行し,アリル基が一つ導入されたmono体,二つ導入されたdi体が順次生成することが経時変化から明らかになった18)。それぞれの過程の速度定数をk1k2とし(図4(a)),逐次一次反応としてフィッティングを行うことで得られたk1k2の値からそれぞれmono体とdi体の生成過程の活性化エネルギー(Ea)と頻度因子(A)を算出した(図4(b))。興味深いことに,活性化エネルギーは細孔径にほとんど依存しておらず,例えばmono体生成過程ではいずれの固定化触媒を用いても70±4 kJ/molの範囲であった。mono体生成過程のアレニウスプロットでは,いずれの細孔径においてもほぼ傾きが一致していることがわかる(図4(c))。一方で,頻度因子に関しては,図3において触媒活性の最も高いMS(C12)を担体とした触媒が最大値を取り,細孔径の小さなMS(C8)や,逆に最も大きな細孔径をもつSBA-15では低下する傾向が確認された。di体の生成過程においてもこれらの傾向は同様であった。これらの結果は,いずれの細孔径をもつMSを用いてもアリル化反応における遷移状態の構造にはほぼ変化がなく,一方で,触媒反応を進行させる複数の活性種と基質分子が出会う頻度は細孔径が23 Åで極大値をとることを示唆している。MS(C12)/PP-Pdを用いたときの反応のイメージを図5に示すが,適度なサイズの細孔をもつMS担体を用いることで,基質分子や触媒活性種が細孔内に適切に集積され,触媒活性が向上する現象が存在すると考えられる。

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図4. (a)ケトエステルのアリル化反応における逐次反応ステップ,(b)DBUと細孔径の異なる担持Pd錯体触媒を用いた際の各ステップ(k1, k2)における活性化エネルギー(Ea)と頻度因子(A),(c)mono体の生成過程(k1)におけるアレニウスプロット.

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図5. メソ細孔内に集積されたPd錯体・DBU・Si–OH基および基質分子が反応するイメージ.

4. 固定化Rh錯体によるフェニルホウ酸の1,4-付加反応

4.1 アルキル鎖の共固定による水溶媒反応の加速

メソポーラスシリカ担体の細孔内環境を制御することで,活性点周辺を目的の反応に適した状態にすることができる。水を溶媒とする有機合成反応が環境調和の観点から注目されているが,固体表面に疎水性の有機分子を導入することで,水溶媒反応における有機基質の固体表面との親和性が向上し,目的の反応が加速されることが知られている19–21)。当研究室では,ジアミンを配位子としてシリカ表面に固定したRh錯体触媒による,フェニルホウ酸の1,4-付加反応を報告している22,23)。MS(C12)の細孔内へRh錯体を導入した触媒は,フェニルホウ酸の1,4-付加反応(図6(a))に良好な活性を示すことがわかっているが,Rh錯体に加えてオクチル基(n-C8H17-)を固定することで,有機溶媒だけでなく,水溶媒を用いても反応が進行する24)図6(b)に,有機溶媒(ジオキサン)を用いたときと,水溶媒を用いたときの,オクチル基とRh錯体の比率が生成物収率に与える影響を示す。有機溶媒ではオクチル基/Rh錯体の比率はほとんど生成物収率に影響を与えなかったのに対して,水溶媒ではオクチル基の割合が増加するにしたがって生成物収率も増加した。すなわち,活性点であるRh錯体周辺の疎水性が向上するにつれて,反応性を低下させる水とRh錯体との相互作用が弱まり,基質分子がRh錯体へと容易にアクセスできるようになると考えられる。

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図6. (a)フェニルホウ酸の1,4-付加反応の反応式,(b)固定化されたRh錯体とオクチル基の比率が生成物収率に与える影響(反応時間:60 min),(c)MS担体の細孔径が生成物収率に与える影響(Rh : octyl=1 : 15,反応時間:30 min),(d)MS/diamine/Rh/octyl触媒の構造イメージ.

次に,担体であるメソポーラスシリカの細孔径が,上述したオクチル基による水溶媒中での反応加速効果に与える影響を検討した。細孔径の異なるMS担体を用いた際の生成物収率を図6(c)にまとめる。細孔径7 nm程度のものはSBA-15,細孔径∞としているものはポーラス構造をもたないシリカの結果である。図からわかる通り,細孔径が3 nm以下と小さなメソポーラスシリカ担体では反応促進効果が大きいのに対して,細孔径が大きくなるにつれて反応性が顕著に低下した。メソ細孔内でのRh錯体とオクチル基のイメージを図6(d)に示す。細孔構造をとることで有機基による疎水性反応場の効果が最大化され,Rh錯体と水溶媒との接触頻度が低下し,目的の1,4-付加反応が効率よく進行したと考えられる。同様の効果は,固定化Pd錯体による水溶媒中でのアリル化反応でも観測された25)

5. おわりに

メソポーラスシリカ担体に固定した金属錯体触媒を用いるアリル化反応および1,4-付加反応において,主に担体の細孔径が反応に与える影響について概説した。Pd錯体とメソポーラスシリカ表面のSi–OH基との協奏的な作用によって,アリルアルコールを用いるケトエステルのアリル化反応が良好に進行した。この反応は塩基の添加によって促進されるが,DBUを塩基として添加した際に,担体の細孔径の影響が顕著に表れ,23 Åの細孔径をもつメソポーラスシリカを用いると最大の活性が得られた。速度論的解析の結果,適切な細孔をもつ担体では基質分子や促進剤がメソ細孔内に集積され,協奏効果が最大化されると考えられる。また,Rh錯体を用いるフェニルホウ酸の1,4-付加反応では,メソ細孔内にアルキル鎖を固定することでRh錯体周辺の疎水性効果が向上し,水溶媒を用いる合成反応に適した反応場が形成されることがわかった。メソポーラスシリカはファインケミカルズ合成に適した触媒担体であり,細孔径の制御はさらなる高性能の発現に寄与するといえる。

謝辞Acknowledgments

これらの研究成果は,共同研究者である池田まりか氏,川嶋沙依氏,橋口滉平氏,孔園園氏,Siming Ding博士,眞中雄一博士のご助力と,科学研究費補助金(20H04804, 22H01863, 25K01578)の支援によってなされたものである。ここに感謝の意を表する。

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