日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 42(3): 88-97 (2025)
doi:10.20731/zeoraito.42.3.88

解説解説

AlPO4-5競合相である新規層状結晶AlPO-NSの合成・構造・特性Synthesis, Structure, and Properties of a New Layered Crystal, AlPO-NS, a Competing Phase with AlPO4-5

1産業技術総合研究所化学プロセス研究部門National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) ◇ 〒305–8565 茨城県つくば市東1–1–1

2産業技術総合研究所化学プロセス研究部門National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) ◇ 〒983–8551 宮城県仙台市宮城野区苦竹4–2–1

受理日:2025年4月22日Accepted: April 22, 2025
発行日:2025年7月15日Published: July 15, 2025
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AlPO4-5多孔質結晶(AFI構造)の合成条件探索において,アルミニウムリン酸塩の新結晶相を発見した。合成の特徴として,水熱反応初期過程ではAlPO4-5が得られるものの,長時間の反応でAlPO4-5の消失と新結晶相の生成が起きる。この新結晶相は結晶外形の特徴からAlPO-NSと名付けた。結晶の厚みは50 nm程度しか有しないために粉末XRDパターンの回折プロファイルは広がり,構造決定は困難を極めた。ナノサイズ単結晶1個を回転させて連続的に電子線回折図形を取得する3D-ED法により初期構造モデルを導出し,粉末XRDパターンのリートベルト解析により最終構造を決定した。層内には6-および10-ringからなる細孔構造を有し,Al,P原子の配置は異なるものの層内Tサイトは新規多孔質アルミニウムリン酸塩結晶GAM-6と同一であった。有機構造規定剤として用いたtriethylamineは中性で層間および層内に存在し,アルカリイオンへの交換特性からプロトンの存在が示唆された。また,層間に面したP原子は–OH基を有しており,焼成により層間が脱水縮合を起こして,多孔質化することが示された。

While searching optimal conditions for synthesizing microporous crystal, AlPO4-5, with AFI structure, we found a new aluminium phosphate crystal phase. The synthesis of this phase, named AlPO-NS, strongly depended on the pH values of the synthetic solution. Because of its morphology feature, bellows of stacked hexagonal sheets of ca. 50 nm thickness, determination of its crystal structure from powder X-ray diffraction (PXRD) data was difficult without the aid of 3D-ED, i.e., a single crystal electron diffraction method. Similar to the morphology, AlPO-NS had a layered crystal structure with a micropore composed of 6- and 10-rings in the layer. Geometric distribution of intralayer T (Al or P)-sites agree with those of GAM-6. This new crystal had exchange properties for alkali cations and the ability of transforming into microporous material when calcined at an appropriate temperature.

キーワード:アルミニウムリン酸塩;層状結晶;AlPO4-5;AlPO-NS;構造解析;3D-ED

Key words: aluminium phosphate; layered crystal; AlPO4-5; AlPO-NS; structure analysis; 3D-ED

1. 緒言

ゼオライト類縁物質として最も代表的なアルミノリン酸塩(AlPO4)多孔質結晶1)は,その化学組成を反映し,ケイ酸塩ゼオライトと同様に骨格隙間に交換性カチオンを有しない。そのため,そのままでは触媒やイオン交換剤などゼオライトの代表的な利用法は適さない(ヘテロ原子の骨格内導入により触媒能が付与可能である)。しかし,ケイ酸塩ゼオライトと異なり,骨格電荷の変調(AlO2δ, PO2δ+)を反映した温和な吸着場を提供する。

代表的なAlPO4系多孔質結晶としてAFI構造(図1(a))が知られる(AlPO4系のみの特徴的構造と思われていたAFIも後にケイ酸塩ゼオライトであるSSZ-24として合成された2))。内径0.73 nmの一次元細孔(図1(b))を有し,結晶は六角柱状(図1(c))に成長しやすい。この特徴を踏まえ,一次元配列した原子・分子を作成の上,その異方性を考慮した分析が可能になる容器として注目され,その研究例として,振動数ωの入射光を2ωに変換し放出する二次の非線形光学特性を示すp-ニトロアニリン分子一次元配列や,超伝導性を有する直径0.4 nmの単相カーボンナノチューブの内包が知られる3,4)。またAlPO4-5の結晶外形と一次元細孔に導入された色素分子の両方が機能発現に関与するマイクロレーザー発振も興味深い5)。我々は当初SiがAlPO4-5骨格に導入されたSAPO-5の単結晶を利用し,SeやTeの一次元鎖構造の創製とその光学特性の解明6,7)を行ったが,一次元鎖への骨格Siの影響がTe一次元鎖形成に関与することが判明8)した。このため,一次元ナノ構造体の理想的な創製場として六角柱状に成長する良質なAlPO4-5結晶の合成を試みたところ,本解説内容のAlPO-NSと命名した新規層状結晶を偶然にも得た9)。結晶品質に関し,独立した一次元細孔を有するAFI構造では欠陥や不純物等により同一細孔で2箇所以上が閉塞されると,それらに挟まれた一次元空間は後述の有機構造規定剤(OSDA)の焼成除去が困難となるだけでなく,ゲスト原子・分子の吸着も不可能となる。故に,細孔の有効利用には多結晶凝集体ではなく,結晶が互いに分散していることが望ましい8)。なお,本論から外れるため詳細は割愛するがAlPO4-5六角柱の結晶は厳密には単結晶ではなく,方位の異なる複数のドメインから構成されるとする報告がある10,11)

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図1. (a)TサイトのみのAFI構造,(b)一次元細孔部,および(c)AlPO4-5結晶の光学顕微鏡像の例.AlPO4系多孔質結晶ではO原子を挟み,AlとP原子が交互配列する.(a)の破線菱面体は単位胞を表す.

AlPO-NS合成は後述する合成溶液のpH調整がその成功に大きく寄与している。合成溶液のpH制御を行った根拠は,マイクロ波照射加熱法(MW法)を用いるとAlPO4-5はpH = 3–10において合成可能12,13)であり,図2のように合成溶液のpHに依存して結晶サイズを制御できること12,14)に由来する。すなわちpH制御を行った合成溶液をオーブンで加熱する簡便な方法(CV法)では数10 µmのサイズスケールにて所望する結晶サイズが得られると予想した。

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図2. MW法によりpH = 4.0–7.0合成溶液から得られるAlPO4-5の粒子径12).挿入図はpH = 4.0の合成溶液から得られたAlPO4-5のSEM像.

2. AlPO-NSの合成

前述のpH制御の結果に先立ち,AlPO4-5およびAlPO-NS合成溶液について簡単に触れる。AlPO4-5が合成可能な有機構造規定剤(OSDA)として3級アミン,4級アンモニウム塩をはじめとする種々のものが知られる15)が,我々は3級のtriethylamine (Et3N)を採用し,巨大結晶の合成16)に求められる毒物のフッ化水素は使わないこととした。また,水やOSDAの量はAlPO4-5結晶の形状に効き,水を増すと針状に,他方OSDAを増やすと丸みを帯びた六角柱状の結晶となる17)。これらの特性を踏まえつつ,我々は

Al2O3 : P2O5 : Et3N : H2O = 1 : 1 : 3.0 : 250

というモル比を合成溶液に採用した。アルミ源は擬ベーマイトナノ粒子の分散したゾル,リン源はオルトリン酸を用いた。この合成溶液はpH≈7.0であるため,濃硫酸の滴下によりpHを最小3.0まで調整した。なお,pH≈2.5まで下げるとAlPO4-5は得られず,高密度相AlPO4が得られる。次にCV法による合成生成物のpH依存性を見ていく。

図3(a)はpH = 3.0–6.9の合成溶液を190°C,5日間加熱して得られた試料のCu-Kα線粉末X線回折(PXRD)パターンである9)。低pH合成溶液ではAlPO4-5が得られ,出発水溶液のpHの上昇と共にAlPO4-5の結晶構造のみならず,既知アルミノリン酸塩結晶では説明できない新たな反射が次第に強くなる。そしてpH = 6.9の合成溶液ではついにAlPO4-5由来の反射は消失した。合成溶液の組成が若干異なるものの,この結果はMW法によるAlPO4-5合成とは全く異なるもので,合成溶液の昇温速度(MW法:1分以内,CV法:1時間程度)と加熱時間(MW法:30分)が生成物の違いに関係していると推察した。そこで,pH = 4.0の合成溶液の190°C保持時間を更に伸長させると,約7日間でAlPO4-5は消失し,新規結晶相由来の反射のみとなった。この試料の走査電子顕微鏡(SEM)像は図3(b)–(d)のようになり,最小厚30 nm程度という2次電子が僅かながら透過するほどの薄い六角板状の結晶が基本単位となっていることが分かった。このことから,我々はこの物質をnano-sheet構造を有するアルミニウムリン酸塩ということでAlPO-NSと命名した。このpH = 4.0の出発合成溶液は1日ほどの水熱時間でpH≈7.4の弱アルカリ性に転じ,その値をほぼ維持した状態下でAlPO4-5に替わりAlPO-NSが生成する。なお,この新規結晶AlPO-NSの化学組成は次章で触れる。

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図3. (a)CV法によりpH = 3.0–6.9合成溶液から得られる生成物のCu-Kα線PXRDパターン.pH = 3.0および6.9のパターン直下にはAlPO4-5(a = 1.368 nm, c = 0.8514 nm, P6cc),指数付けに基づくAlPO-NS(六方晶系a = 0.9413 nm,c = 5.2286 nm)の反射位置をそれぞれ示した.(b)–(d)pH = 4合成溶液から得られたAlPO-NSの2次電子SEM像.(c)は(b)の長方形領域の拡大像,(d)は加速電圧15 kVによる像である.[(a)はRef. 9の図を改変.Copyright: Elsevier.]

新規結晶であるAlPO-NSの結晶構造の解明はその生成機構を理解する上で重要である。AlPO4-5は空間群P6ccの結晶構造を有し,c軸を回転軸とした6回対称性を持つ。他方,AlPO-NSは図3(d)に見られるようにその外形から同じく6回対称性を持つことが示唆されることから,VPI-5(VFI)→ AlPO4-8(AET18,19)のようなAlPO4-5が直接相転移してAlPO-NSが生成される結晶成長過程を我々は期待した。しかし,後述のようにPXRDデータの指数付けまではできたものの,未知物質のPXRDデータに対するここ20年ほどの間に発展した様々な解析法をもってしても,薄い層厚の結晶外形がもたらす回折プロファイルの広がりは,結晶構造決定の障害となっていた。

3. AlPO-NSのマルチプローブ構造解析

AlPO-NSの結晶構造は,上述の問題もあり,単結晶XRDや放射光粉末回折実験を行っても長らく未解明であった。一方,国外では2010年頃から,国内では2020年頃から極微結晶の構造解析法として3次元回転電子回折法(3D-EDまたはmicroED20)とも呼ばれる)が注目を集めてきた。より専門的には,子細な測定法や装置条件の違いから研究グループごとにADT,RED,cRED,serialREDなどと呼称は異なるが本質は同じである21–24)。3D-ED/microEDは基本的には従来からの電子線回折法に基づくが,電子と原子の相互作用がX線の場合と比べ104–105倍大きいことから,微小結晶であっても十分な回折強度が得られることがポイントである。今日では電子ビームの照射量を極力弱め(透過電子顕微鏡(TEM)像観察と比べて1/500程度),代わりに超高感度な半導体検出器を用い,場合によってはクライオホルダーも併用することで,微結晶の電子線損傷を大幅に低減させている。試料を1軸方向に連続的に回転(傾斜角は±60°程)させながら,短時間(通常は2–5 min)で制限視野電子回折パターンのデータセットを収集する(図4(a))。

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図4. (a)3D-ED測定原理の模式図と(b)AlPO-NSでデータ収集に用いた結晶のシャドウDIFF像および,(c)測定した560枚のEDを結合・再構築して得た逆格子マップ.[(b),(c): Ref. 28より.Copyright 2024, Elsevier.]

ED法は高分解能(HR-)TEM観察において結晶の方位決め(軸立て)や格子定数,消滅則からの対称性(空間群)の決定に有効で,古くから無機材料の構造評価に用いられている25)。しかし先述した“電子と原子の相互作用が大きいこと”が災いし,EDデータは多重散乱の影響を受ける。この多重散乱は,ブラッグ条件に基づく回折強度を大なり小なり変えてしまう問題を引き起こす。このため,3D-EDが現れる前は電子回折による結晶構造解析は,限られた専門家の研究対象26,27)であって,一般的には“適さない”とされてきた。しかしながら欧米では,3D-EDによるゼオライトも含めた多彩な化合物の構造決定が報告されるようになると,瞬く間に強力な解析手法として注目されるようになった。これは,回折強度がいくらか不正確であっても,独立した回折ピーク(すなわち構造を決める情報量)が多いことの方が,結晶中の原子配列の決定には圧倒的に有利となることを意味する。従来のゼオライトの構造解析の主力であったPXRDでは,「反射の重なり」という根本的な問題があり,1次元パターンで識別できる反射の数は放射光を用いても高々千個に満たない。対して3D-EDでは数十〜数百nmのサイズの結晶から数万個におよぶ回折点を得ることができ,複雑な位相問題の解決に繋がる。我々も,この解析法を学ぶ過程で「数は力」を痛感している。加えて,大きな結晶を得る必要も無いため結晶成長に掛かる手間と時間を省略できることから,微少量しか得られない貴重な新材料の研究加速にも繋がる。これらのことを踏まえ,本研究では,3D-EDをPXRD,固体NMRおよびSEMの各手法との連携(マルチプローブ構造解析と呼んでいる)に新たに加え,AlPO-NSの結晶構造解析を試みた28)

さて,本論に戻り,1Hおよび13C MAS NMRスペクトルからは,Et3Nおよび水分子が含まれていること,O–H···Oの水素結合が形成されていることが示唆された(図は省略)。このO–H···Oの水素結合は,ゼオライト骨格内ではT原子の欠損や層表面の水酸基同士が隣接する層間で十分近いことを意味する。31P MAS NMRおよび27Al 3QMAS NMRスペクトルからは骨格情報を得た28)31P核では観測ピークは全てPO4種に帰属され,フィッティングから3つ共鳴ピークの存在が示唆された。27Al核では強い四極子相互作用が影響するため,3QMAS測定で2次元スペクトルに分解したところ,3つのAlO4種と2つのAlO6種の存在が示された。

PXRDパターンを用いて指数付けしたところ,図3(a)に示した格子定数がa = 0.952 nm,c = 5.281 nmとなる六方晶軸の単位格子が導かれた9)。また消滅則からはP63/mP63P6322などが空間群の候補として導かれたが,初期構造モデルを得るに至らなかった。構造決定の決め手となったのは数年前から取り組みだした上述の3D-EDだった29)

2023年に産総研東北センターに設置されたナノマテリアル試作・評価プラットフォーム(通称NEPP)にて,3D-ED専用機であるRigaku/JEOL製のXtaLAB Synergy-EDが導入された。専用機であるため得られるEDデータの精度は高く,測定から構造解析までを1つのソフトウェア上で一気通貫に行え,既存のHR-TEMによる実験・解析に比べ操作性は格段に良い。AlPO-NSでは,直径約400 nm,厚み100 nm未満の板状結晶1つ(図4(b))から,560枚の制限視野電子線回折像を収集し,それらを3次元逆格子空間データに再構築の上,ブラッグ反射強度を抽出した。等価反射を含め18553個の回折強度を得ることができた(図4(c))。測定時間は10 min弱であったが,それでもsub-µmの薄片結晶からの測定であることを考えると非常に高速であり,電子線ダメージによるデータの劣化は無視できるほど小さかった。

解析では,まず指数付けから格子定数がa = 0.9277 nm,c = 5.138 nm,空間群がP6322と求まった。上述したPXRDから見積もった値に比べacも小さくなっているが,これは3D-EDでは試料が真空下にあることに起因する。SHELXによる直接法解析から,基本構造はc軸方向に2枚の嵩高い層が単位胞に含まれた層状構造であった(図5)。1層の厚みは2.35 nmにも及び,骨格構造はAlO4とPO4だけでなくAlO6も含んでいて,細孔内内壁に相当する部分は3-,4-,5-および6-ringにより構成されている。構造モデルにおける結晶学的なAlとPの独立サイトの数は,それぞれ5個と3個でありNMRからの推定と一致した。側面の[100]および[010]方向に10-ringの孔があり(図5(a),(b)),[001]方向から見える6-ringの孔(図5(c))は10-ringの孔と繋がっていて,層単独で3Dポーラス構造を作っていることが大きな特徴である。この10-ringでは2つのAlO4四面体が点共有してAl–O–Al結合を形成し,また層表面はP–OH部位で終端している。構造モデルからAl/P値は1.29と推定され,EDS分析値から見積もられた1.35とほぼ一致した。

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図5. 3D-ED法によって得られたAlPO-NSの層状骨格構造を(a)[110],(b)[010]および(c)[001]方向から見た図.(d)GAM-6を[110]方位から見た図.(e)AlPO-NSとGAM-6の骨格構造を構成する2種類の砂時計型およびプロペラ型と呼ぶ共通構造部位.Ref. 28より転載(Copyright 2024, Elsevier.).構造可視化にはVESTA3を用いた30)

3D-EDからは骨格外原子(OSDAや吸着水など)の位置について正確に決めることは困難であった。この理由は,分子の運動性が大きい(大きな熱振動),サイト占有率が低い,真空下で分子の脱離が起こる,などが考えられる。このため,得られた初期モデルを基に高分解能PXRDデータを用いてリートベルト解析を行い,構造の細部を定量的に明らかにした。Et3Nは層の細孔内および層間に単位胞あたりそれぞれ2分子と4分子分布していた。層間に分布するEt3Nは層表面の大きな窪みの中心付近に位置し,細孔内では10-ringの孔を跨がるように位置していた。またEt3Nの周りには吸着水の存在も確認された(図6)。また骨格には電荷補償のためのHが多数付随していることも示唆された。それらの位置を一意的に求めることは容易ではないが,現時点では5-ringや6-ringにプロトン(H+),またはAl–OH–Alのようなµ-hydroxoとして存在すると考えている。最終的な構造組成は,|H24(C6H15N)6(H2O)9.95|·[Al36P28O134(OH)4]と見積もられた。

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図6. 構造精密化によって得られたAlPO-NSの結晶構造.層状骨格にある細孔内と層間にEt3N分子と水分子が分布している.

こうして最初の合成から10年の歳月を経て解明されたAlPO-NSの結晶構造であるが,つい最近(我々がAlPO-NSの構造を報告する少し前に)小村らによって報告されたCo,Al,P,O原子が骨格を構成するナノ多孔体GAM-6と高い構造類似性があることが判明した。GAM-6はAFI型構造のCoAPO-5(AlPO4-5の骨格原子が一部Coに置換)を用いたゼオライト転換法により合成され,空間群はP6322(AlPO-NSと同じ),格子定数はa = 0.94665 nm,c = 2.36551 nm,構造組成は|H4.8(H2O)32.2|·[Co1.6Al17.4P12O56(OH)14.2]で表される31)図5(d)にAlPO-NSと[110]方向からみたGAM-6の構造モデルを示す。Al,Pの原子配列は一部異なるものの,両者の骨格トポロジーは酷似しており,砂時計型とプロペラ型の構造部位によって形成されている(図5(e))。図5(a)における括弧1,2で示すAlPO-NSの1層の半分に相当する部位を180°反転させ,末端–OH基の位置を揃えて架橋すればGAM-6と等構造になる。

4. AlPO-NSの多孔体化とイオン交換能

シラノール基を層表面にもつ層状ケイ酸塩の脱水縮合によるゼオライトへの構造変換に関する過去の経験32–34)から,同様に層表面に–OH基が多数存在するAlPO-NSでも同様なことが期待された。焼成温度を変えて窒素吸着能を評価したところ,613 Kの焼成で吸着量が大きく増加し,663 Kで吸着量が最大(比表面積:298 m2/g,ミクロ孔容積:0.11 mL/g)になった(図7(a))。加えてArガス吸着から,平均細孔径が10-ring径に相当する0.55 nmであった。

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図7. (a)553 Kから673 Kまで温度を変えて焼成したAlPO-NSの窒素吸着等温曲線.(b)as-synthesized,焼成体,Na+およびK+イオン交換体のPXRDパターン.Ref. 28より転載(Copyright 2024, Elsevier.).

AlPO-NSの骨格電荷が負であることから,イオン交換能の存在も期待し,0.5 M NaClおよびKCl水溶液(100 mL)にAlPO-NSを0.1 g加えて室温で72 hの処理を行った。結果,Na/Al = 0.11(Al/P = 1.18),K/Al = 0.12(Al/P = 1.34)となり,Na+やK+がAlPO-NSに含まれることが分かった。これは先述したプロトンの存在を間接的に証明する結果である。図7(b)にAlPO-NSの焼成体およびイオン交換体のPXRDパターンを示す。焼成体とK+イオン交換体では002反射が消失し,Na+イオン交換体では002反射の強度は小さくなった。これはc軸方向の周期長さが元のAlPO-NSから半減したことを意味しているが,結晶性が低く構造決定には至っていない。結晶性の低下は層同士が縮合する,または接近する過程で積層周期が不均一化したためと考えている。

5. AlPO4-5の安定性

AlPO-NSやGAM-6などのAlPO4-5,CoAPO-5を経由,または原料とする新規結晶創製において,これらの初期アルミノリン酸塩の水中での安定性が鍵を握っているのは間違いない。そこで,アルミノケイ酸塩のゼオライトおよびアルミノリン酸塩多孔質結晶において骨格に共通に存在するAl原子の局所状態について,過去の研究例から以下,議論をしてみたい。

ブレンステッド酸点は議論が複雑となるので,ここではアルカリイオンを電荷補償のために有するゼオライトの中から,結晶構造の対称性,測定例の豊富さからLTA構造のA型ゼオライト(Si/Al = 1)を一例として挙げる。Na+を有する場合の27Al核のMAS NMRは含水状態(約30分子/α-cage)であっても,4配位構造に由来するピークが59 ppmに1本出現するだけである35)。一見すると常識的な結果と思えるが,アルミノリン酸塩では状況が一変する。

水蒸気を含む雰囲気下でAlPO4-8(AET)にtopotacticに相転移するVPI-5(VFI)の含水状態ではTO4四面体であることを直接反映した4配位Al (35–40 ppm)が1本観測されるほか,6配位Alに由来するピークが-18 ppmにも存在し,それはAlO4四面体のO原子4個と水2分子の配位と解釈されている19,36,37)。VPI-5では空間群P63を採用すると骨格のAlのサイトには結晶学的には3種類あり,そのうちの1つ(2個の4-ringに共有されるAl)のみが6配位となっており,配位数を反映して骨格原子のO–Al–O角も4配位のそれと比べて小さい38)。そしてこの6配位Alがtopotacticな相転移に直接的に関与19)することから,この6配位Alの骨格Al–O結合は他の4配位Alと比べて相対的に弱いことが容易に推察できる。

一方,AlPO4-5では4配位に由来するピークが約30 ppmに観測されるだけでなく,含水状態では6配位に由来するピークも-18 ppmに現れる39,40)。両者の強度比は約6 : 4である。AlPO4-5の結晶構造空間群をP6ccとするとAlサイトは1種類しか存在しない。にもかかわらず,2種類の配位状態が存在するということは,真の対称性は更に低い可能性があり,実際,合成条件・脱水・測定時試料温度などの因子が対称性の変化に寄与することが知られている41–43)。若干本題から逸脱したが,VPI-5と同様にAlPO4-5でも6配位Alが存在し,そのAlを起点とした結合切断(加水分解)が起きてもなんら不思議ではない。

VPI-5における相転移は水蒸気雰囲気下にて生じる。他方,AlPO4-5を経由または原料として用いるAlPO-NSやGAM-6は弱アルカリ性の水熱環境由来であるため,豊富な水分子・OHイオン濃度増加も相まって誘起される合成反応といえる。更に一方が層状結晶,他方が多孔質結晶でありAl,P原子の配置も異なるのは,用いたOSDA等が異なるためと予想されるが,その差異の解明は今後の課題である。

最後にAlPO4-5とAlPO-NSの構造関係性について簡潔に触れる。前者は4-,6-,12-ring構造を,後者は前述の通り3-,5-,6-,10-ring構造を有する。更にAlPO-NSでは6配位Al–O結合およびAl–O–Al結合も確認された。このことから,AlPO4-5からのtopotacticな構造相転移でAlPO-NSが形成されたとは考えにくい。また,近年話題となっているゼオライト転換法44)との類似性について触れると,合成溶液中のパーツの定義にも依存するが,少なくともAlPO4-5のリング構造よりも更に小さな単位まで加水分解しているものと推察される。

6. まとめ

本解説では,新規層状アルミニウムリン酸塩AlPO-NSの合成の経緯からその構造決定に必要不可欠であった最新の分析手法3D-EDまでを重点的に紹介した。AlPO4-5合成用水溶液のpH制御がAlPO-NSを得る重要因子である。一方,構造解析は3D-ED法なくして成功には至らなかった。3D-EDから得られたAlPO-NSの初期構造モデルを使い,PXRDデータのリートベルト解析,NMRデータ等を組み合わせた多角的構造評価法によりその構造の詳細が明らかとなった。AlPO-NSはGAM-6と骨格構造にかなりの類似性を有し,一部の層状ケイ酸塩のように脱水縮合による多孔質化やイオン交換能を有することも分かった。

謝辞Acknowledgments

本研究はJSPSの科研費(課題番号22K04826, 23H01764および23350107)の支援を受けて行われた。また3D-ED測定は,産総研ナノマテリアル試作・評価プラットフォーム事業の支援を受けた。

引用文献References

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