日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 42(2): 63-68 (2025)
doi:10.20731/zeoraito.42.2.63

解説解説

マイクロ波照射によるゼオライト内イオンの原子レベル選択加熱Atomic-Scale Selective Heating of Ions in Zeolites Micropores under Microwaves

東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻Department of Chemical System Engineering, Faculty of Engineering, University of Tokyo ◇ 〒113–8656 東京都文京区本郷7–3–1

受理日:2025年2月13日Accepted: February 13, 2025
発行日:2025年4月15日Published: April 15, 2025
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化学反応器の省エネ化を目指して,投入エネルギーから高い効率で化学エネルギーを取り出すプロセス(高いエクセルギーのプロセス)の開発は必然的な目標である。電極触媒系あるいは光触媒系は,触媒中の特定の電子・ホールの電気化学ポテンシャルを操作し反応を駆動させるため,理論的に高いエクセルギーを実現しうる。熱触媒系で高いエクセルギーを実現するためには,原子レベルの触媒活性点に対して選択的に熱エネルギーを投入する技術が不可欠となる。マイクロ波加熱は,固体触媒中における電気伝導性の高い金属ナノ粒子や,移動度の高いイオンなどに対して,選択的に作用してミクロスケールの局所高温場を形成することができる。筆者らは近年,ゼオライト触媒に対してマイクロ波を照射することで,その細孔内金属イオンが選択的に発熱し,原子レベルの局所高温場が形成することを見出し,触媒設計性および触媒作用について実証を行ってきた。本記事では,マイクロ波照射下でのin situ X線分析手法を基盤とする原子レベル選択加熱の実験的証明と,原子レベル選択加熱がもたらす触媒反応への効果について筆者らの近年の成果についてまとめ,ゼオライト構造制御に基づく原子レベル選択加熱の設計についての将来展望を示す。

To improve the energy efficiency of chemical reactors, it is essential to develop processes that can extract chemical energy with high efficiency from the input energy—processes characterized by high exergy. Electrocatalytic and photocatalytic systems can theoretically achieve high exergy because they drive reactions by manipulating the electrochemical potential of specific electrons and holes within the catalyst. In contrast, achieving high exergy in thermocatalytic systems requires a technology that selectively delivers thermal energy to catalytic active sites at the atomic level. Microwave heating can selectively interact with highly conductive metal nanoparticles and highly mobile ions within solid catalysts, thereby forming localized high-temperature fields at the microscale. In recent years, we have discovered that microwave irradiation of zeolite catalysts induces selective heating of metal ions within their micropores, leading to the formation of localized high-temperature fields at the atomic-scale. We have experimentally demonstrated the impact of this phenomenon on catalyst design and catalytic activity. In this article, we summarize our recent findings on the experimental validation of atomic-scale selective heating, based on in situ X-ray analysis techniques under microwave irradiation. Furthermore, we discuss the effects of atomic-scale selective heating on catalytic reactions and provide a future perspective on the design of selective heating at the atomic scale through zeolite structure control.

キーワード:マイクロ波;骨格外金属イオン;分子動力学計算;放射光分光;in situ計測

Key words: microwaves; extra-framework metal ions; molecular dynamics; synchrotron spectroscopy; in situ spectroscopy

1. はじめに

カーボンニュートラル社会の実現に向け,化学産業電化による再生可能エネルギーの導入と,それに伴うCO2排出量削減が望まれる。従来の化学反応器はボイラー加熱などによって運転されており,局所でのCO2排出を伴う。このような背景のもと,マイクロ波駆動の触媒プロセスが注目を集めている。

マイクロ波は誘電性,磁性,および導電性を持つ物質へ直接伝播することで熱を発生させる。これによりマイクロ波は通常の加熱方法ではなしえない物質選択的かつ高速加熱を実現する。マイクロ波によって選択加熱されるような触媒活性点構造を作り込むことで,触媒反応に対して選択的にエネルギーを投入することができ,省エネ化につながると期待される。近年多くの研究者がマイクロ波駆動の触媒プロセスの研究に注力しており,プラスチック分解1)や熱化学水分解2)などが報告されている。

マイクロ波選択加熱は,バルクスケール(~cm)からミクロなスケール(~nm)に至るまで様々なスケールで起こる3–5)。一方,高温マイクロ波環境での温度測定法は,赤外放射温度計による表面温度測定に限定される傾向にある。すなわち,測定温度と反応場温度は異なることに常に注意するべきである。しかしながら,しばしば研究者はマイクロ波照射によってもたらされる測定温度以上の反応速度増加,選択率向上に直面することがあり,場合によっては「非熱的効果」として報告されてきた。このことは,マイクロ波照射下での触媒反応メカニズムが厳密に議論できておらず,物理化学的な描像に基づく学理体系が十分に整っていないことを意味する6)。触媒化学の観点で言えば,マイクロ波照射下での触媒反応場の選択加熱を原子レベルで評価し,反応の描像を厳密に議論することが必要不可欠である。

本稿では,筆者らが近年報告したゼオライト細孔内に導入した金属カチオンのマイクロ波による原子レベル選択加熱と,その触媒作用について紹介する(図17)。金属カチオンの原子レベル選択加熱を実験的に証明するにあたり,大型放射光測定施設SPring-8でのマイクロ波照射in situ高エネルギーX線全散乱測定を行った。また,このような特殊な局所温度場によるメタン酸化反応のダイナミクス変化も示し,マイクロ波加熱の有用性について実証した。今後,ゼオライト骨格等を制御することで,原子レベル選択加熱を自在に設計していくことが期待でき,それらを将来展望として述べる。

Zeolite 42(2): 63-68 (2025)

図1. ゼオライト細孔内の金属カチオンの選択加熱に基づくメタン酸化反応.

2. イオン交換ゼオライトのマイクロ波加熱

種々のアルカリ金属カチオン(Na+, K+, Rb+, Cs+)を交換したFAU型ゼオライト(Si/Al=2.8)について,窒素ガス雰囲気下での915 MHzマイクロ波照射による加熱試験を行った(図2)。この時の温度計測は赤外放射温度計(パイロメーター)を用いて行った。表記されている温度はゼオライト充填層の表面温度であることに注意されたい。

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図2. アルカリ金属カチオン交換ゼオライトのマイクロ波加熱挙動.

金属カチオンが変化すると加熱挙動は大きく変化することから,細孔内の金属カチオンがマイクロ波エネルギーを選択的に吸収し,熱エネルギーに変換していると考えられる。調査したゼオライトの中でCs+カチオンを交換したゼオライト(Cs+-FAU)は,50 W程度のマイクロ波により効率的に加熱され,40–50 W程度で500°Cに安定した。

一方で,Na+カチオンがもっとも加熱されにくく,200 Wのマイクロ波で加熱が確認され,200°C程度の温度を閾値として急激な温度上昇(熱暴走)が観測された。K+およびRb+はNa+とCs+の中間の性質を示し,120 W程度のマイクロ波で加熱が確認された。すなわち,より大きなイオン半径を有するほどマイクロ波照射下で高い加熱特性を示すことと,イオン半径が小さいほど熱暴走をしやすく安定的な加熱ができないことが分かった。誘電スペクトル測定の結果から,Cs+-FAUゼオライトは広い温度域でデバイ緩和型の誘電特性を示すのに対して,Na+-FAUゼオライトは温度上昇とともにデバイ緩和型の誘電特性から,導電特性に変化していくことが分かった。分子動力学計算などを組み合わせ,Cs+イオンはスーパーケージあるいはSODケージ内に閉じ込められていることで,安定的にデバイ緩和特性を示すことが分かった。一方で,Na+イオンなどは温度上昇とともに二重六員環(d6r)を通り抜けてゼオライト細孔内を自由に移動し始めるため,導電性が急激に上がり,熱暴走が起こることが示唆された。

3. in situ計測に基づくマイクロ波加熱現象の解明

図2の測定のように,マイクロ波照射下での温度計測には従来の接触式温度計を用いることができず,多くの場合は赤外放射温度計が用いられる。しかしながら,触媒層表面の温度のみ計測可能であり,触媒層内部の温度を評価することはできない。ゼオライト細孔内のカチオンが局所高温場となっていることを示すためには,ナノレベル・原子レベルの局所高温場を評価することが可能な,新たな温度計測技術が必要となる。

大阪大学の塚原(現・マイクロ波化学株式会社CSO)らは,ラマン分光法のストークス散乱とアンチストークス散乱の強度比が,散乱体の温度に依存することを利用して,有機溶媒中に分散した金属ナノ粒子のマイクロ波選択加熱を実測した8)。東工大の阿野らは,広域X線吸収微細構造(EXAFS)の振動パターンが測定対象の温度に依存することを利用して,マイクロ波照射下において担持金属ナノ粒子が担体よりも高い温度に到達することを示した5)。さらには,発光強度・発光寿命の温度依存性を利用した分子温度計も開発されており,マイクロ波照射下における局所温度の計測も実証されている9,10)。これらの計測方法によって,バルク温度を基準とした局所高温場の評価に成功している。

一方で,原子レベル選択加熱を実証するためには,選択加熱状態のカチオンと,その周りを囲う原子集団との相対的な評価が必要となる。この観点で,筆者らは高エネルギーX線散乱分光法に着目し,マイクロ波照射下での測定を実現する実験系の構築に努めてきた。マイクロ波照射装置の様々な改造を通して,大型放射光施設SPring-8のBL04B2ビームラインでのマイクロ波照射下in situ高エネルギーX線全散乱測定系を構築し,データ計測を実現した(図3)。

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図3. マイクロ波in situ高エネルギーX線全散乱測定系(SPring-8,BL04B2ビームライン).

測定したX線全散乱パターンをフーリエ変換することで,二体分布関数を得た。図4(a)には,通常加熱およびマイクロ波加熱下でのCs+-FAUの二体分布関数を示す。マイクロ波照射下ではCs+カチオン周辺に帰属されるピークに通常加熱ではみられない特異的なシフトがみられた。このピークシフトは,マイクロ波照射によるCs+カチオンの原子レベル選択加熱によって,ゼオライト細孔内での相対的な変位が起こっていることを示している。

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図4. 高エネルギーX線全散乱測定と分子動力学計算に基づくCs+イオン選択加熱の実証.

さらに詳細な議論を行うため,分子動力学計算を用いたシミュレーションを行った。ゼオライト骨格を200°C,300°C,400°C,500°Cに保った状態でCs+カチオンのみを350°C,475°C,630°C,750°Cに加熱し,二体分布関数を予測した(図4(b))。この結果からも,X線全散乱スペクトルから得た二体分布関数と同様のピークシフトが予測され,以上の結果より,マイクロ波照射下ではゼオライト細孔内のアルカリ金属カチオンが選択的に加熱されることが実証された。

4. マイクロ波照射下におけるメタン酸化反応

高いマイクロ波加熱特性を示したCs+-FAUについてメタン酸化反応に対する触媒活性評価を行った。Cs+カチオンサイトがメタン酸化反応の活性サイトであることは,メタン雰囲気下での赤外分光測定とNa+-FAUがメタン酸化反応に活性を示さなかったことから確認した。図5に通常加熱とマイクロ波加熱下でのメタン酸化反応の反応結果を示す。マイクロ波加熱における500–540°Cでの反応速度は通常加熱における700–750°Cでの反応速度と同等であった(図5(a))。また,速度論解析の結果からマイクロ波加熱と通常加熱では反応メカニズムが変化していないことを踏まえると,これはマイクロ波照射下ではメタン酸化反応の活性点であるCs+カチオンがゼオライト骨格に対して200°C程度選択的に加熱されているためであると結論付けられた。さらに,メタン転化率15%での生成物の選択率を比較すると,通常加熱730°Cでは含酸素生成物(COやCO2)の選択率が86.5%であるのに対して,マイクロ波加熱500°C(活性点は730°C相当)では97.3%へ向上することが分かった(図5(b))。通常加熱では,触媒とガスが同じ温度まで加熱されることで,副反応であるガス中でのメチルラジカル生成が進行し,ラジカルカップリング反応によるエタンが生成する。一方で,マイクロ波加熱においてはCs+のみが選択的に加熱されることで気相での反応が相対的に抑制されるためであると考えられる。このように,マイクロ波によって触媒活性点へ熱エネルギーを集中させることによって省エネルギー化および高度な触媒反応制御が可能であることが分かった。

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図5. Cs+-FAUにおけるメタン酸化反応の結果(a)メタン転化速度とメタン転化率の関係,(b)生成物選択率とメタン転化率の関係.

5. 結びと将来展望:原子レベル局所高温場の自在設計

本稿では,マイクロ波照射下におけるゼオライト細孔内の金属カチオンの原子レベル選択加熱の実験的実証と,触媒反応への効果について紹介した。これらの実証はSi/Al=2.8のFAU型ゼオライトを用いた実験によるものであり,ゼオライト骨格トポロジー,Si/Al比,あるいはAl位置など,ゼオライト材料側で制御できるパラメーターは無限に広がっている。また,マイクロ波側についても周波数915 MHzに限った実証であり,周波数を変化させることによる制御などが期待できる。また,ゼオライト材料に限らず,振動可能なイオンを内包する材料であれば,マイクロ波照射によってそのイオン周囲での原子レベル選択加熱が期待できる。すなわち,研究対象は無限に広がっており,加熱現象を一つずつ紐解いていくことで,原子レベル局所高温場の自在設計が可能になるだろう。

謝辞Acknowledgments

今回の解説記事に記載した研究を遂行するにあたり,名古屋大学・理学部物理学科の谷口博基准教授,高輝度光科学研究センターの山田大貴博士,伊奈稔哲博士,東京大学・化学システム工学専攻の脇原徹教授,村岡亘輝助教,吉岡達史博士のご助力に感謝します。また,本研究内容は科研費・学術変革領域研究(A)「超秩序構造が創造する物性科学」の公募研究(21H05550, 23H04097),基盤研究(B)(24K01254)の支援を受けて遂行されました。

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