世界全体での温室効果ガスの排出量増加は気候変動等に影響を与える深刻な問題であり,国連の世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)によると2023年のCO2,メタン(CH4),一酸化二窒素(N2O)の各観測地点での平均濃度値はそれぞれ420±0.2 ppm,1934±2 ppb,336.9±0.1 ppbと,産業革命以前と比較して増加している1)。パリ協定に基づき,日本においても2030年度には2013年度に対して約46%の温室効果ガス排出削減を達成することを表明している2)。この目標を達成するためにはCO2などの排出量が多い発電所や工場,加えて大気中からのCO2等の直接回収が重要となってくる。もちろん,CO2回収に加えて回収したCO2をどのように扱うかも重要となってくる。近年では,Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage(CCUS)の技術に対して世界各国が力を入れており,回収したCO2を地中に貯蔵する,またはCO2を別の有用な化合物(メタンやメタノール)に転換することが検討されている。また,CCSは地中にCO2を圧入すると同時に地中深くの原油等を回収するEnhanced Oil Recovery(EOR)などの技術にも適用可能である。これらのCCUSにおいて必要とされる高純度なCO2を用意するためには,CO2を選択的に分離可能なプロセスが必要となり,加えてCO2の回収コストはできるだけ安価でなければCCUSは実現しない。CO2の回収技術として,吸着や膜分離などの分離プロセスが注目されており,中でも結晶性の多孔質アルミノケイ酸塩として定義されるゼオライトはCO2を選択的に吸着する能力を有する。ゼオライトなどのミクロ孔性の多孔質材料が示す分子吸着能は,そのミクロ孔内の表面と吸着質との間でのファンデルワールス力等の相互作用によるポテンシャルエネルギーの減少により発現する。また,ゼオライトのSi/Al比を制御することにより,分子内極性を有するCO2との相互作用や吸着容量を変化させることが可能である。低Si/Al比,すなわちゼオライト細孔内にカチオンを多く含むゼオライトであれば,カチオンとCO2との静電相互作用によりCO2を選択的に吸着することができる。図1(a)に示すように,ゼオライトのSi/Al比が減少すればI型のCO2吸着等温線を示し,高Si/Al比のゼオライトと比較してCO2の吸着容量も増加する傾向にある。ただし,CO2が吸着する際に発生する吸着熱量が増加すれば,吸着したCO2を脱着するために必要なエネルギーも増加する。また,I型の吸着等温線はCO2脱着時に極低圧側までCO2の分圧を下げる必要があるため,CO2を回収する上でデメリットである。以上をまとめると,ゼオライトはSi/Al比を下げることでCO2に対する吸着容量や親和力を増加させることができる一方で,CO2を脱着させるために,多量の熱や大きな圧力スイングを必要とすることが現状の課題である。この問題を解決する方法の一つに近年注目されている「ゲート型吸着」とよばれるステップ状の吸着挙動を示す多孔質材料の利用が挙げられる。
2.1 ゲート型吸着(Gate-type adsorption)
I型の吸着等温線の場合,CO2等のゲスト分子の脱着時に低圧側までの圧力スイングが必要になる。一方で,図1(b)のようにあるしきい圧力でゲスト分子の吸着量が急激に増加するようなS字型(シグモイド型)の吸脱着等温線であれば,低圧側までの圧力スイングを必要とせずに小さな圧力差で大きなワーキングキャパシティを稼ぐことができる。このような特異な吸着等温線は,これまで金属有機構造体(metal-organic frameworks: MOFs)などの多孔質材料で報告されており,あるしきい圧力においてclosed poreからopen poreへ結晶構造が変化することでシグモイド型の吸着等温線を示す3)。この吸着挙動は「ゲート型吸着」とよばれており,構造変化によりゲート型吸着を示すようなMOFsをFlexible MOFsともよぶ。ゲート型吸着にもその構造柔軟性の種類によってbreathing型やlinker回転型,stacking型などの多くの種類が存在する4–6)。また,ゲート型吸着による吸着等温線の形状によってそのメカニズムは異なり,breathing型のゲート型吸着を示すMaterial Institute Lavoisier 53(MIL-53)やlinker回転型のゲート型吸着を示すZeolitic Imidazolate Framework 8(ZIF-8)ではゲスト分子を取り込む前から既にopen poreであるため,低圧側において吸着等温線の立ち上がりを確認することができる4,5)。一方で,stacking型のゲート型吸着を示すElastic layered-structural MOF 11(ELM-11)等では,ゲスト分子を取り込む前はclosed poreであるためシグモイド型の吸着等温線を示す6)。このように,ゲート型吸着はそのメカニズムや吸着等温線の形状により分類することができる。また近年は,MOFsよりも構造安定性の高い共有結合性有機構造体(Covalent Organic Frameworks: COFs)においてもCO2やC2・C3炭化水素に対して構造柔軟性に起因するステップ状の吸着等温線を示すことが報告されている7)。Flexible MOFsなどの構造柔軟性を有する材料は,ゲート型吸着とよばれるエネルギー的観点からも非常に魅力的な吸着挙動を示す。一方で,一般的にMOFsはゼオライトなどの無機材料と比較して,熱的ならびに水・水蒸気耐性が低いものが多く,実際のCO2回収プロセスでの利用においてはまだ課題が残る。
2.2 トラップドア吸着(Trapdoor adsorption)
ゼオライトはMOFsと比較して結晶構造はリジッドであるが,細孔内カチオンの存在による非常に興味深い吸着挙動を発現することがある。例えば,Cs+にイオン交換した低Si/Al比(Si/Al = 2程度)のCs+型CHAゼオライトの場合,Cs+がCHA骨格のゲスト分子の拡散パスとなる8員環細孔(3.8 Å×3.8 Å)入口付近に存在することが知られている8,9)。したがって,Cs+が8員環細孔入口付近に存在すれば,動的分子径が3.3 ÅのCO2は細孔内に拡散・吸着しないはずだが,実際にCO2吸着試験を行うとCO2を細孔内に吸着する挙動を示す。これは,8員環細孔入口付近に存在するCs+がCO2等の四極子を有する分子と相互作用することでポテンシャルエネルギーが減少し,その減少した分のエネルギーをもって細孔入口付近から別のエネルギー準位の高いカチオンサイトに移動することでCO2の拡散パスが生成することによる10)。このように,ゲスト分子の拡散パス上に存在するカチオンが別のカチオンサイトに移動することでゲスト分子が細孔内に拡散・吸着する現象は「トラップドア(Trapdoor)吸着」とよばれ,2012年にShangらが報告した。この吸着挙動は,CHA以外にRHOゼオライトでも報告されており,8員環小細孔とそれに通ずる比較的広い細孔内空間を有するCHAケージやRHOケージとよばれる骨格ユニット,加えて,ゲスト分子の拡散パス上に存在するカウンターカチオンに起因する11,12)。また,細孔入口付近で門番の役割を果たすカチオンを「ドアキーピングカチオン(Door-keeping cations)」10)とよび,これまではCs+などの比較的イオン径の大きなアルカリ金属イオンで報告されていたが,RHOゼオライトではCs+に比べてイオン径の小さなNa+の場合でも同様のTrapdoor吸着現象が発現することが報告されている。この場合のTrapdoor吸着現象はNa+がCO2の拡散パス上に存在していることが原因とされている11,12)。ただし,ここで注意しなければならないことはトラップドア吸着現象がゲート型吸着現象とは異なり,必ずしもシグモイド型の吸着等温線を示さないことである。これまで無機骨格のゼオライトにおいても熱振動による構造の微小な変化によって,細孔径よりも大きな分子を吸着することはよく知られている13)。一方,近年の研究ではゼオライトにおいても構造変化によってFlexible MOFsのようなゲート型吸着を示すことが報告されてきている。
2.3 ゼオライトが示すカチオン/ブリージング吸着現象
GeorgievaらはCs+型のMERゼオライトにおいて,カチオンの移動とそれに付随するゼオライト骨格の変化によるステップ状のCO2吸着挙動が生じることを報告している14)。またChoiらは,この現象を競争的カチオン/ブリージング(cooperative cation-breathing)現象とよび,水分子の脱着時とCO2の吸着時に,カチオンの移動とそれに伴いMERの構造自体も一部変化することによってゲート型吸着と同様の吸着現象を示すことを報告している15)。すなわち,ゼオライトにおいてもTrapdoorの現象と結晶構造の変化によるbreathing現象が同時に生じることによってシグモイド型の吸着等温線を示す。また,同グループはGISゼオライトにおいても同様のステップ状のCO2吸着挙動を示すことを明らかにしており,数多くあるゼオライトの中でもFlexible MOFs同様の構造柔軟性に由来するゲート型吸着挙動を示すゼオライトが存在することが明らかになってきている16)。
3. PHIゼオライトが示すゲート型CO2吸着機構
筆者らもPHIゼオライトがCO2に対してcooperative cation-breathing現象同様のゲート型吸着機構を示すことを明らかにした17)。PHIゼオライトは図2に示すようにa軸,b軸,c軸方向にそれぞれ3.8×3.8 Å,3.0×4.3 Å,3.3×3.2 Åの細孔から構成される3次元チャネルを有する。また,これまでの研究において,PHIゼオライトは溶液からのフェノール除去や海水からの金属イオン除去,ガス・液体分離膜としての利用が試みられてきた18–22)。筆者らはY型ゼオライトを出発原料にした水蒸気供給転換法によりPHIゼオライトを合成し,種々のアルカリ金属(Na+, K+, Rb+, Cs+)にイオン交換した後CO2に対する吸着能を調べた(図3)。その結果,細孔内カチオンのイオン径の増加に伴いCO2の吸着容量も増加し,Na+,K+,Rb+型PHIではI型のCO2吸脱着等温線を示した。一方で,Cs+型PHIではNa+,K+,Rb+型とは異なり,シグモイド型のCO2吸脱着挙動を示した。
そこで,この吸着メカニズムの詳細を解明するために,大型放射光施設SPring-8のBL02B2においてCO2吸着下でのその場粉末X線回折測定を行った(図4)。その結果,図5の吸着等温線においてCO2の吸着量が急激に増加するP = 20 kPa付近からX線回折パターンの変化が確認された。この結果から,CO2に対するステップ状の吸着挙動はPHIの結晶構造に起因するものであることが示唆された。そこで,ステップ状に吸着量が増加する圧力前後でのX線回折パターンに対して指数付けならびに格子定数の精密化を行った結果,急激な吸着量の増加が生じる圧力の前後で結晶格子が三斜晶系から直方晶系に変化していることが確認できた。また,CO2吸着後の結晶系ならびに格子定数は従来報告されているPHIのものとおおよそ一致しており,PHIの結晶構造はCO2やH2Oなどのゲスト分子が吸着していることで直方晶系の結晶格子を保持していることが考えられる。これらの結果は既報のMERやGISなどが示したゲート型CO2吸着機構と類似しており,PHI骨格内でのCs+の移動とそれに伴う構造転移に起因するものであると考えられる。
ただし,このPHIゼオライトにはゲート型のCO2吸着挙動を示す一方で,この特異なCO2吸脱着挙動が吸着–脱着の1サイクルで終わってしまうという課題も筆者らの研究で明らかとなった。すなわち,CO2のサイクル測定を行うと,ファーストサイクルで確認できるステップ状のCO2吸着挙動がセカンドサイクルでは生じないことが明らかとなった(図5)。不可逆的なCO2吸着挙動では,CO2回収プロセスでのPHIゼオライトの利用は困難になる。そこで,PHIゼオライトのゲート型CO2吸着挙動の安定化に向けて異種ゼオライト骨格との複合化を検討した。
4. CHA骨格との複合化によるPHIゼオライトのゲート型CO2吸着挙動の安定化23)
次に筆者らは,Y型ゼオライトからPHIゼオライトへ結晶転換する際に準安定相として生成するCHAゼオライトに着目した(図6)。結晶転換温度・時間を制御することによってCHA骨格とPHI骨格との複合型ゼオライトを合成し,PHIゼオライトが示すゲート型CO2吸着挙動を制御することを試みた。その結果,CHA/PHIゼオライトはPHIゼオライト単体と異なり,可逆的なゲート型吸着挙動を示すことが確認できた(図5)。また,77 KでのN2吸脱着測定の結果,CHA/PHIゼオライト内でのCHAとPHIの重量割合はおよそ3:2であることが示唆された。
そこで,Si/Al比ならびに細孔内カチオン種が等しいCHAとPHIゼオライトをそれぞれ合成した後,同じ重量割合で物理的に混合させたものに対して同様のCO2吸脱着試験を行った。その結果,CHA/PHIゼオライトとは異なる吸脱着等温線を示したことから,2種のゼオライトは単に物理的に混在しているのではなく,骨格レベルで複合化していることが示唆された。これらの結果からもCHA/PHIゼオライトはそれぞれの骨格が独立で存在しているのではなく,骨格同士の複合化により可逆的なゲート型CO2吸着挙動を示したと考えられる。実際に,CHA/PHIゼオライトに対してもPHIゼオライト同様のCO2雰囲気下でのその場X線回折測定を行った結果,CHA構造はCO2吸脱着過程においてX線回折パターンに変化は見られなかったものの,PHI構造はCO2吸脱着過程において可逆的に回折パターンが変化していることが確認できた(図7)。この結果は可逆的なCO2吸脱着挙動と一致しており,PHIゼオライトはCHAゼオライトとの複合化により安定的な構造変化を示すことが示唆された。
次に,CHAとPHIが構造的にどのように複合化しているかに関して検討を行った。Na+型CHAゼオライトとNa+型PHIゼオライトの物理混合物ならびにNa+型CHA/PHIゼオライトそれぞれに対してCO2破過試験を行い,動的吸着特性の違いを検討した。
その結果,CHA/PHIゼオライトの方が破過時間は長く,CO2の細孔内拡散速度がCHAならびにPHIゼオライトの物理混合物に比べて速いことが明らかとなった。加えて,133Cs MAS NMR測定より,CHA/PHIゼオライト内のCs+の状態は単体のCHAならびにPHI内のCs+の状態とは異なることが示唆された(図8)。CHAとPHIは図6に示すように骨格自体は異なるものの,3.8×3.8 Åの酸素8員環小細孔を共通に有している。すなわち,それぞれの骨格がintergrowthする場合,共通な酸素8員環を共有することが予想できる。以上の結果より,PHI単体ゼオライトでは,8員環小細孔入口付近に存在するNa+の存在によってCO2の細孔内拡散速度が遅くなるが,CHA/PHIゼオライトの場合,Na+がCHA骨格とPHI骨格が共有すると考えられる8員環小細孔入口付近に存在することによってCO2のPHI骨格内への細孔内拡散速度が速く,結果として動的吸着能に差が見られたと考えられる(図9)。このように,異種ゼオライト骨格同士のintergrowthにより,単体ゼオライトでは得られない安定的かつ速度論的に有利なCO2吸着能を獲得できることが本研究で明らかとなった。
本解説では,ゼオライトが示す特異的なゲート型のCO2吸着挙動と異種ゼオライト骨格の複合化によるゲート型CO2吸着挙動の可逆化に関して述べた。また,筆者らの報告に続く形で他の研究グループからもCs+型PHIゼオライトが示すステップ状のCO2吸着挙動に関する報告24,25)がなされており,より省エネルギーなCO2回収プロセスに向けたゲート型吸着挙動を示すゼオライトの応用への期待が高まっている。
ゲート圧力を制御することができれば,従来のゼオライトに比べて小さな圧力スイングでより大きなCO2ワーキングキャパシティを稼ぐことができる。一方,吸脱着等温線間のヒステリシスの抑制や賦形化,水存在下でのCO2吸着能の保持など,構造変化を伴う低Si/Al比のゼオライトにおけるCO2回収プロセスへの利用に向けた多くの課題について,その解決に鋭意取り組んでいる。本研究の目的達成への道のりは険しいが,ゲート型吸着を示すゼオライトは今後の省エネルギーなCO2回収プロセスの実現に向けた有力な候補として期待している。
謝辞Acknowledgments
本研究を遂行するにあたり,共同研究者の岐阜大学近江靖則准教授および横浜国立大学稲垣怜史教授には深く感謝申し上げます。また,大型放射光施設SPring-8のBL02B2を使用するにあたり,河口彰吾博士,小林慎太郎博士,森祐紀博士には多大なるご指導をいただきましたことを御礼申し上げます。また,本研究の一部は,日本学術振興会科学研究費助成事業特別研究員奨励費(No. JP23KJ2109),科学技術振興機構次世代研究者挑戦的研究プログラム採択事業(JPMJSP2150),一般財団法人ササクラ環境科学財団2021年度一般研究助成,公益財団法人令和環境財団令和5年度学術研究助成,公益財団法人大倉和親記念財団,関西大学戦略的研究拠点形成支援経費の助成を受けて実施されたものです。ここに御礼申し上げます。
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