日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
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Zeolite 42(1): 16-23 (2025)
doi:10.20731/zeoraito.42.1.16

ゼオゼオゼオゼオ

ゼオライトに魅せられて40年

関西大学名誉教授

発行日:2025年1月31日Published: January 31, 2025
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1. はじめに

私自身とゼオライトとの関りについて駄文を投稿させていただきます。

大学の学部4年生から博士後期課程修了まで7年間,企業での18年間と大学での22年間,40年近くゼオライトと接してきた。いまだにゼオライトは魅力的な材料だと感じる。多くがアルミニウム,ケイ素と酸素から構成され,構造での分類では250種ほどではあるが,まだまだ未知の機能を秘めていると思う。工業的に使用されているゼオライトはわずか10種ほどで,残る多くのゼオライトにも用途が見出せるのではないかと思う。ただ,多くのゼオライトの細孔径が1 nm未満なので,細孔内に入れる分子のサイズが限られ,このため,大量に使用されている有機のバルクケミカルズに関連した新しい用途開拓は難しくなっているのかも知れない。

250種ほどのうち,容易に入手できる約10種類以外のゼオライトについては,自分で合成するしか研究できないので,水熱合成の経験がないと新たな展開は難しいかもしれない。ゼオライトの水熱合成自体はそれほど難しい訳ではないが,不純物を含んでいては学問的な研究にはならないので苦労する。色々なゼオライトを合成してきたが,X線回折パターン,比表面積,NMRなどから総合的にゼオライトの純度を確認してきた。

ゼオライトは,触媒,イオン交換材,吸着材,分離材等として,まだまだ用途が発見されると思っている。ゼオライトの構造とSi/Al比をにらみながら,アイデアを創出していただきたいものだ。

2. 大学卒業まで

1978年春に学部4年生で研究室配属先を選ぶことになった。学科には,CとHしか生成物に含まないものを扱うといったバリバリの有機合成の研究室,フロンティア電子理論で世界の最先端をいく計算化学の研究室などがあったが,より実社会に近いと思った固体触媒の研究室を選んだ。

研究室は,武上善信先生が他講座から兼担で来られ武上研ではあったが,当時は乾智行先生,久住眞先生が所属され,中でも乾先生の熱い言葉に惹かれて,半ば消去法でもあったが,結果的に正しい選択だったように思っている。

研究室には7名の卒研生が配属となり,5名が乾先生と,2名が久住先生と卒業研究をすることとなった。乾先生は,ゼオライトの実用性にいち早く着目され,乾先生と実験することになった同期の5名は,ゼオライトの調製,メタノールのオレフィン(MTO)やガソリン(MTG)への変換の研究を行っていた。私自身は久住先生と一緒に,クロロジフルオロメタンの無触媒熱分解反応によるテトラフルオロエチレン合成を研究した。気相反応のテクニック,ガスクロやIRでの生成物の同定,授業で習った反応速度論を実際の反応に応用した反応解析などを学んだ。百万遍の交差点に近く,知恩寺の甍を眺めながら,最初の1年間を過ごした。ゼオライトは私の傍にあった。

修士課程に進学し固体触媒を扱うことになった。私を含め3人の修士がいたが,2人がゼオライトで,私自身はCO2のメタン化に用いるアルミナ担体を研究した。当時は,第2次オイルショックの後で,原油に頼らないバルクケミカルズの製造が望まれていた。国の方針もあり,C1化学が華やかで,日本中の多くの研究室で,フィッシャー–トロプシュ(FT)法やMTO・MTG法でオレフィンやガソリンを合成する研究,混合ガスからのエタノール合成,エチレングリコール合成の研究を行っていた。博士課程2年の時に,種々のアルミナを担体としたRu系触媒による合成ガスからの混合アルコール合成を井上正志先生と一緒に研究することになった。定期的に相談する乾先生,武上先生との関係から,朝が遅く始まり夜が更けない井上先生との毎日で,研究者としての全てを学んだ。

結局,大学での6年間の研究生活で,ゼオライトはいつも私の傍にあった。

3. 企業での18年

1984年4月に東洋曹達工業株式会社(現,東ソー株式会社)に入社した。

二ヶ月の新入社員教育を終え,研究所の有機研究室に配属となった。その中で固体触媒の研究をしていたグループに属することになった。グループは,全員がベンゼンの塩素化によりパラジクロルベンゼン(p-DCB)を製造するためのゼオライト触媒の研究を行っていた。ここで初めてゼオライト触媒に携わることになった。東ソーはA型ゼオライトやX型,Y型ゼオライト,モルデナイトなど,いくつかのゼオライトを工業的に製造していた。また,パラフェニレンスルフィド(PPS)が耐熱性のあるエンジニアリングプラスチックとして有望視されており,その原料が硫化ナトリウムとp-DCBであった。p-DCBは,ルイス酸である塩化鉄を触媒としてベンゼンの塩素化により製造されていたが,オルソジクロルベンゼン(o-DCB)が約35%生成し,その市場成長率がp-DCBに比べて低く,高選択的にp-DCBを製造する触媒・プロセスが求められていた。そこで,ゼオライト細孔の持つ立体・遷移状態規制によりパラ体をより選択的に合成できれば,自社のゼオライトを触媒とし,自社の安価な塩素とベンゼンから競争力のあるp-DCBを製造することができ,PPSのコスト競争力も得られると目論んで研究開発を行っていた。その研究開発でカリウム型のL型ゼオライト(K-L)が90%弱の高いp-DCB選択性を示すことを把握していた。副生成物を,35%からわずか10数%に激減できる。一方で,ゼオライトの事業部は事業に苦戦していて,ゼオライトを使用してくれる企業を探すために積極的にゼオライトのサンプル提供を行っていた。その中の一社が,私が入社した年の3月の日本化学会で,K-L型ゼオライトを触媒としたベンゼンの塩素化で高いパラ選択率が得られることを報告した。このため,私の研究テーマは,K-L型ゼオライトを超える高いパラ選択率を示す触媒の探索であった。

私自身は大学で6年間ゼオライトを傍では見聞きしていたものの,ゼオライトの直接的な研究は初めてであり,まず最初にそれまでのグループの毎月の経過報告会の資料を見直した。その結果,高いパラ選択性にはゼオライトの細孔構造が大きく関与し,また,活性点の弱い酸性も影響していると考えた。このため,ゼオライトの細孔径を制御することを考えた。ゼオライトは無機の結晶性の物質であり,容易に細孔径を変えることは難しかった。当時知られていた,アルコキシシランによるCVDで細孔入り口を狭くすること,四塩化ケイ素による脱アルミ・ケイ素置換など,考えられるあらゆることを試みた。3,4ヶ月経っても全くポジティブな結果は得られず,胃の痛い思いをしていた。ある日,塩化ナトリウムを含侵担持してゼオライトの細孔径を狭める夢を見た。早速そのアイデアを試し,Na-Y型ゼオライトの約78%のパラ選択率が85%に高まるという初めての結果を得た1)。塩素分子による塩素化反応では,ものによっては無機の酸化物でも塩素化され,ベンゼンやクロルベンゼンに溶解してしまう。このため,安定に存在できて細孔径を狭くし続けられるものでなくてはならず,その意味で塩化ナトリウムは適していた。当然,塩化ナトリウムの担持率を変えたり,NaCl担持Na-Y型ゼオライトの酸性質を解析したり,選択率向上の理由を確認しようとしていた。その頃,ゼオライトを合成する無機研究室の板橋慶治氏から,Salt-bearing phenomenonというのが知られていると教えていただいた。ユニオンカーバイド社のR. M. Barrer先生が書かれた書籍に,まさに塩を含浸し高温の熱処理を行うと,ソーダライトケージ内に塩が入った物質が得られていた。教えていただいたのが先だったか,実験して確認したのが先だったかは覚えていないが,NaClを含浸担持して550℃で焼成したNaCl担持Na-Y型ゼオライトを水洗し,細孔内のNaClを除いたゼオライトでもパラ選択率が83%程度に向上していることを確認した。パラ選択性の向上は,酸性質の変化と細孔径の縮小の二つの要因によることを明らかにした。これには,当時次第に使用されるようになっていたESCA(XPS)や27Al-MAS NMRの解析を用いた。ソーダライトケージは,酸素6員環と酸素4員環からなるが,高温での焼成により塩化ナトリウムは酸素6員環を通過して,ケージ内に入れる。ソーダライトケージ内には,空間の制約から塩素イオンは1個しか包含されない。元のソーダライトケージの内部には,SI’,SII’にナトリウムカチオンが存在でき,カチオン同士が相対しているため相対的に不安定な状態にある。ソーダライトケージの中心に塩素アニオンが入ることで,ナトリウムカチオン同士の反発が少なくなりエネルギー的に安定となることがSalt-bearingが起こる理由とされている。

1986年に第7回国際ゼオライト会議が東京で開催された。東ソーも会社のアピールも兼ね,発表を考えており,無機研究室からゼオライト合成に関する2件の発表と,私のSalt-bearingによる塩素化の合わせて3件の発表を行うことになった2)。会議前日のwelcome partyにBarrer先生が来られていて,たまたま気が付いたので,面識も全くなかったが厚かましくもSalt-bearingを利用した触媒の発表をするので聞いて欲しいと大先生にお願いした。残念ながら当日の聴衆の中にはおられなかったように思った。

見出した触媒よりも,単に水熱合成しただけで得られるK-L型ゼオライトの方が好ましく,残念ながらSalt-bearing触媒は工業化に至らなかった。K-L型ゼオライトは,6000時間を超える寿命が確認され,工業的に使用できると分かったが,会社の判断で実用化はできなかった。ベンゼンの塩素化では,塩化水素が発生するが,塩酸ではないのでゼオライトの寿命は保たれることも確認できた。私のゼオライトに関係する最初の研究は,もやもやしながら終わった。

ナフサのクラッキングから得られるエチレン,プロピレン,ベンゼン等はそれぞれ有効利用される。一方,C4,C5と炭素数が多くなるにつれ異性体の数が多くなり,それぞれを分離することが困難になる。ブタジエンを回収した残りはスペントC4(s-C4)留分と言われ,これからさらにイソブテンを回収した残りはスペントスペント(ss-C4)留分と言われる。炭素数5では,シクロペンタジエン,ジシクロペンタジエン(C10)には用途があるが,これらを除いた多くの異性体を含む留分(s-C5)は有効な用途がなかった。そこで,s-C5をベンゼン(B),トルエン(T),キシレン(X)等に変換して付加価値を高める研究をZSM-5を触媒として行った3)。ブレンステッド酸触媒による炭化水素の反応では,コーキングによる活性低下は不可避で,s-C5のBTXへの変換も例外ではなかった。ゼオライトを酸触媒とする多くの反応では,触媒の再生を最初から考慮すれば工業化が可能となる。もちろん,生成物の付加価値が触媒プロセスのコストを上回ることは必須である。シクロペンタジエンは,ディールスアルダー反応により保存中にも容易にジシクロペンタジエンに変わる。逆反応も容易で,加熱でシクロペンタジエンにできる。BTXの生成は,シクロペンタジエンの開環や増炭反応によるものと推定していたが,実際はジシクロペンタジエンの橋頭位のC–C結合が開裂・脱水素してBTXが生成していた。私にとっては思ってもいなかった反応経路だった。

社内で組織変更があり,研究開発は研究所と技術開発部が担うこととなり,研究所は前例のない世界初の技術の開発,技術開発部は,主に現行技術の改良や技術導入に携わることになった。私自身は引き続き研究所の所属となり,リスクの高いテーマを担当することになった。研究所では,石油化学における技術を俯瞰的に解析するとともに,研究所の過去の成功と失敗も考慮し,いくつかのテーマを選定した。酸素と水素からの直接過酸化水素合成,プロピレンやベンゼンの直接部分酸化などであった。ちょうどその頃,日本化学会の春の年会で広島大学の佐々木和夫先生の研究室から,酸素,水素とベンゼンからフェノールを合成する反応が報告され,その技術を伝授いただいた。一方で,東ソーでは過酸化水素の直接合成を調べており,その知見もあったので,フェノール合成の独自の触媒系を構築していった4)。また,プロピレンの直接酸化でのプロピレンオキシドもターゲットとして考えていた。先の東京での第7回国際ゼオライト会議で,イタリアのENI社からチタノシリケートゼオライトを触媒とするプロピレンと過酸化水素からのプロピレンオキシドの合成が報告されていた。これらの,酸素と水素からの過酸化水素合成や過酸化水素によるエポキシ化の組み合わせ,すなわち酸素,水素,プロピレンから一段でプロピレンオキシドが合成できるという着想を得た。具体的には,Pd担持チタノシリケートを触媒とすることで,Pd上で酸素と水素からin situで過酸化水素を合成し,直ちにチタノシリケート上でプロピレンと反応させプロピレンオキシドとするものだった。金属触媒が存在する中でプロピレンと水素が容易にプロパンを副生することが想定されたが,反応条件や触媒調製によっては定量的に近い高い選択率でプロピレンオキシドが生成した5,6)。世界初の技術の特許をアメリカと欧州でも出願しようとしたが,収率が一桁に満たなかったので出願できず,また,研究テーマもストップさせられた。ところが,1年半経ち国内で出願していた特許が公開となり,世界の主要なプロピレンオキシドメーカーから技術に関する問い合わせが相次いだ。世界の大手が,可能性のある新しい技術に直ぐに手を打とうとすることに驚いた。問い合わせに対応するため急遽チームが編成され,チタノシリケート触媒の調製と反応結果の再現を始めた。しかし,反応結果がなかなか再現しなかった。カギは二つあり,一つはチタノシリケートゼオライトの調製だった。考えられること全てを検討した結果,あるメーカーの構造規定材を使用すると再現性良く高結晶性のチタノシリケートが得られ,その原因が試薬に含まれる不純物と判明した。諸々検討して,特許記載のプロピレン転化率,プロピレンオキシド選択率を再現することができた。私たちの技術ではプロピレンオキシドの直接合成は工業化できなかったが,間接法ではあるものの過酸化水素とプロピレンからのプロピレンオキシド製造がBASF社により工業化されている。当初のENI社の技術ではあるが,ENI社の最初の特許は失効しており,石油化学のバルクケミカルズの新規製造プロセスであれば,ベンチ,パイロット,本プラントと技術の確立に何年もかかるため,最初の特許は障害にならないという事かもしれない。

4. 大学での22年

2002年に関西大学に転職した。転職する前に名古屋大学の服部忠先生にお目にかかる機会があり,先生から今時何を考えてるのといったようなコメントをいただいた。暫くしてその意味を知ることになった。

大学に移って,当然ではあるが会社時代のテーマは続けられず,また,装置等も援助してもらえなかった。後になって共同研究を通じて多大な支援をいただいた。余談だが,ここを使って良いと言われた実験室には実験台しかなく,ビーカーやフラスコも天秤も何もない所からスタートすることになった。予算も会社時代に比べ格段に少なく,加えて大学特有の仕事を割り当てられ,また,週に何コマもある授業の準備もしなくてはならず,初年度は本当に大変だった。

会社時代にゼオライトを扱った経験があり,Ag+をイオン交換したゼオライトを触媒としたプロピレンオキシド合成や,ゼオライトと類似している金属有機構造体Metal-Organic Framework(MOF)の研究を始めた。エチレンの酸化でエチレンオキシドを製造する触媒に,シリカ担持のAg触媒が使用されている。エチレンと異なりプロピレンではアリル位の水素が反応しやすく,プロピレンオキシドの選択率が低かった。低選択率の原因は,Agのクラスター上で複数の酸素分子が活性化され,酸化反応が進みすぎているためと考えた。そこで,ゼオライトにAgをイオン交換すれば,原子状に分散したAg触媒となり選択性を高くできるのではないかと考えた。Ag以外の元素や,ゼオライトの種類を変えたり,いろいろ検討したが活性と選択性に見るべき結果は得られず,このテーマは早々に諦めた。金属Agでなくイオン性のAg+だったのが悪かったのか,ゼオライト内のAg+が悪かったのかは分からなかった。

やはり会社時代に,マンガン酸化物の中にゼオライトと類似した「ミクロ細孔をもちそう」なものがあることを知っていた。MnO6八面体が頂点や稜を共有して,例えば縦横に2×2で結合して一次元トンネル構造を持つCryptomelaneや,3×3で結合したTodorokiteが生成することに興味をもっていた。これらが,マンガンの持つ酸化力と一次元細孔構造により特異な触媒作用を示すのではないかと考えていた。「ミクロ細孔をもちそう」というのは,2×2や3×3の構造を形成するために,ゼオライト合成で鋳型を必要とするように,これらの合成でもK+やMg2+が鋳型の役割をはたし,それが細孔内に残っているため細孔が塞がれたようになっているためである。全てのマンガンが4+であれば,K+やMg2+は存在できないが,一部のマンガンが3+となるため,電荷バランスのために細孔内にカチオンを必要とし,これが鋳型の役割をはたしている。細孔内のカチオンはH+にイオン交換可能で,4.6 Åあるいは6.9 Åのミクロ細孔をもたせることは可能だが,調製の段階で結晶構造の一部が崩壊するようだった。Todorokiteを触媒として,CO酸化7)やシクロヘキサン酸化8)を検討した。いずれの反応もMars-van-Krevelen機構と考えているが,格子酸素が酸化に使われ,気相酸素で再酸化されるサイクルで,再酸化が律速で反応に伴いマンガンの酸化数が低下し,結晶構造も徐々に崩壊し,触媒性能が低下するという克服できなかった問題があった。

ゼオライトにはイオン交換能がある。2011年に東日本大震災があり,福島第一原子力発電施設での放射性Cs+やSr2+の除去にゼオライトも貢献している。ゼオライト単位重量当たりの交換容量が多ければ,廃棄するゼオライト量を削減できると考えた。このためには,Si/Al比の小さいゼオライトが好ましく,また,イオン選択性があればさらに好ましい。Mordenite(SiO2/Al2O3>20)が使われているようだったので,これより低いSi/Al比のゼオライトを検討した。既知のゼオライト約250種をSi/Al比で整理し,さらにCsイオンはイオン半径が大きいのでゼオライトの細孔径も考慮し,あまり有名ではないMerlinoiteを見出した9)。また,チタノシリケートゼオライトであるETS-1,-2にもCs除去剤としての可能性を見出した10)

ゼオライトは1756年に初めて認識され,200年を超える歴史の中で256種類がIZAで認定されている。一方,1990年代に認識されるようになったMOFは,約30年の内に20000種合成されているとも言われている。AlとSiとOを主な構成要素とする無機の結晶であるゼオライトは,結晶構造で分類されるためにバリエーションがそれほど豊富ではない。これに対し,MOFでは有機リンカーが用いられ,有機物であるため種々の官能基のついたものが使用できる。例えば,テレフタル酸にアミノ基が一つ結合したリンカーを用いたMOFは,これだけで種類が一つ増えることになる。ニトロ基にすればまた一つ増える。このように,MOFはバリエーションが極めて豊富であるが,一方で官能基が一つ結合するだけでリンカーの値段が一桁高くなったりするため,コストに見合う用途を探さないと実用化は難しくなる。

結晶性のMOFは,元素の多くが細孔内に露出しているため高い比表面積を有している。6000 m2/gを超えるMOFも報告されている。このため,吸着材,分離材,触媒や触媒担体などとして期待されている。私たちは,MOFの細孔内で触媒反応を進めれば,ミクロ細孔に制約された生成物や分離性が得られると考えて,まずは,エチレンの二量化,三量化を意図してNi錯体をMOF細孔内に担持した触媒を検討した11)。また,MOFの分子篩作用を期待して,キシレン混合物からのパラキシレンの分離を検討した。パラキシレンの分離では,安価なフマル酸をリンカーとしたMOF-801を用いることで可能性を示せた。また,この検討の中で,温度を変えてキシレンの吸着性を検討したところ,ある温度までは3種類全てのキシレンが細孔に入れなかったが,ある温度からパラキシレンのみが細孔内に入るという挙動を見出した12)。無機の結晶であるゼオライトも温度により少しは格子が緩むと理解しているが,有機物のリンカーを用いるMOFでは,格子がさらにフレキシブルであることが分かった。

とくにアメリカにおいて,シェールガス革命でメタンが大量・安価に入手できるようになった。メタンと同時にエタンも産出される。日本と異なり,元々アメリカでは,エチレンの約半分がエタンクラッカーにより製造されていた。メタンとともに安価なエタンが得られ,このためアメリカではさらに安価なエチレンを得ることができるようになり,ポリエチレンや塩ビを製造する新たなプラントが立ち上がった。エタンを輸入し,これらのエチレン誘導体を製造したのではコスト競争力に乏しいと考えた。一方で,ナフサクラッカーで得られる芳香族化合物(BTX)がエタンクラッカーでは得られないので,安価なエチレンを付加価値の高いBTXに変換することを考えた。

前段のエタンからのエチレン製造には,酸化的脱水素と単純脱水素があるが,水素を同時に得られる単純脱水素を検討した。水素化や脱水素では,金属触媒とともに酸化物触媒も可能性が考えられた。金属触媒の場合には,高い脱水素能と同時に過剰脱水素による炭素析出,また,逆反応によるエタン転化率の平衡制約が想定された。そこで,エタノールの単純脱水素にZnO/SiO2が極めて有効であることを見出していたので13),また,金属ではなくイオン状態の亜鉛が水素化や脱水素に有効であることも知られていたので,ゼオライトにZn2+をイオン交換した触媒を検討した。イオン交換なので,イオンのまま保持でき過剰脱水素や逆反応である水素化が進みにくいと期待した。東ソーより提供いただいたZSM-5をZn2+にイオン交換して用いた。二価のイオンのイオン交換については,近接アルミサイトでないとイオン交換が進みにくいとの報告もあるが,交換されたZn2+と水溶液中のNa+の量的関係から,Zn2+とNa+が1 : 2で途中も含めて100%の交換率までイオン交換が進行していた。エチレン選択率・収率については,最適なZn2+交換率が存在し,それ以下では選択率は100%を維持してエタン転化活性が下がり,それ以上では,活性は向上するもののエチレンの逐次反応の進行によりエチレン選択率が低下した。亜鉛をゼオライト骨格に含むMFI構造のZincosilicateがZn2+による脱水素能を発揮し,しかも安定な性能を示すと期待したが,エタンに対してはZincosilicateそのものでは活性が十分ではなかった。そこで,脱水素能を期待してPtをイオン交換して担持したPt/Zincosilicateを検討したところ,高性能な触媒となることが分かった14)

次いで,エチレンの芳香族化をH-ZSM-5で検討した。エチレンからの芳香族化メカニズムについては,二つの説がある。一つは,へキセン,へプテン等まで炭素鎖が伸びてから環化脱水素するもの,もう一つは,芳香族にアルキル基の側鎖を持つ化合物が生成し,その脱アルキルが関与して芳香族が生成するというものである。いずれにしても,エチレンが多量化する必要があり,エチレンが酸点に吸着することを考えると,SiO2/Al2O3比が芳香族化に影響すると考えた。そこで,SiO2/Al2O3比の異なるZSM-5を東ソーから提供いただき検討したところ,SiO2/Al2O3比が小さいほど,BTX収率が高くなることを確認した。また,酸触媒によるオレフィンの反応のため,活性低下が起こり,芳香族(BTX)の中ではベンゼンが最初に認められなくなり,次いでトルエン,そしてキシレンが最後に生成しなくなる経時的な挙動が見られた。このため,エチレンからキシレンが生成し,キシレンからトルエンやベンゼンが生成していると結論した。上述のように,芳香族収率は低SiO2/Al2O3のH-ZSM-5ほど高くなったため,工業的に製造されているものより低いSiO2/Al2O3のH-ZSM-5の調製を試みた。SiO2/Al2O3比が低ければ,ストレートとジグザグの二つのchannelの交差点でのエチレン吸着量が増加し,より多くの芳香族化合物が得られると考えている。

工業的に製造されているZSM-5のSiO2/Al2O3比の下限は約22であり,有機テンプレートを用いる水熱合成ではこれより低いものは合成しにくいことを示唆している。アルカリによる脱Siとその後のAlの埋め込み,メカノケミカルによりあらかじめ調製したシリカアルミナを原料とした合成,もちろん,Al源を多くした原料での水熱合成温度や水の量を変えた調製等,色々検討したが全てうまくいかなかった。そうこうしているうちに,たまたま2023年秋に北大であった第132回触媒討論会で,東工大(現,東京科学大学)の後藤秀和氏の発表(3G13)の中にSiO2/Al2O3比が22より小さいZSM-5があり,多湖輝興先生の許可をいただきその調製方法を参考にさせていただいた。SiO2/Al2O3比が約20までのZSM-5を調製することができ,これを用いたエチレンの芳香族化の性能は,SiO2/Al2O3比22までのものの延長線上にあり,50%を超える芳香族収率が得られている15)。ただ,Lowenstein則,Dempsy則から論理的に結論されるZSM-5のSiO2/Al2O3比の低限界は10と報告されており,これらのZSM-5が調製できれば,さらに高い芳香族収率も可能かもしれない。いずれにしても,学会の発表の場にたまたま居たことが結果につながり,さぼらないで参加することに意味を改めて感じた。

最後に,長鎖パラフィンからの芳香族合成について述べる。ご存知のように,プラスチックのリサイクルが望まれている。リサイクルは聞こえの良い言葉ではあるが,実現には課題が多い。元々,ある意味エントロピーの低い原油から,オレフィンを製造してポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン等のプラスチックが製造されている。これらは,さらにフィルム,パイプ,車のバンパー等として使用され,いわばエントロピーが増大した状態になっている。プラスチックのリサイクルでは,これらの分散してエントロピーが高くなったものを,集めてエントロピーを下げることになり,自由エネルギー的には進まないのでエネルギーを使用して集めることになる。また,集めたプラスチックには,耐候性向上,強度向上等のため種々の添加物が加えられており,C,H以外の種々のヘテロ原子が含まれている。さらに,土,醤油,紙ごみ等の種々の物質が含まれた状態でプラスチックは回収される。これらにより,リサイクルには色々なコストがかかり,プラスチックから得られる基礎炭化水素原料は,原油から得られるものより割高になりやすい。それでも,それなりのコストで利用できる化合物をターゲットにすることが求められる。

回収したプラスチックを前処理に手間をかけずに触媒を用いて直接芳香族化合物に変換するのは難しいと考えた。そこで,回収したプラスチックを一度熱分解し,容易に除ける不純物等を除去して,生成した長鎖オレフィンとパラフィンから芳香族化合物が得られないか検討した。検討対象としては,プラスチックの熱分解で得られる生成物の炭素数が30程度までであったので,C30未満を原料として検討した。また,芳香族化する機能と,パラフィン原料ではオレフィンを経由するため脱水素する機能が必要であり,この二つの機能を持たせた触媒としてPt/H-ZSM-5,また,Pt-Ga(または,-Re)/Al2O3を検討した。知られていることではあるが,同一条件では,炭素数が多くなると転化率は高くなった。BTX収率については,炭素数6から8では,炭素数が多いほどBTX収率が高くなった。しかし,8を超えるとBTX収率は減少した。ZSM-5を担体としてもAl2O3を担体としても,BTX収率に大差はなかった。芳香族生成物をGC-MSで詳細に解析すると,担体として用いたZSM-5とAl2O3で挙動が少し違っていた。ZSM-5の場合には,炭素数が9以上になるとBTX収率が下がり,その他の芳香族生成物もあまり見られなかった。これに対し,Al2O3を担体にした場合には,BTX収率は炭素数9以上では8に比べて下がっていたが,長鎖の側鎖を持つBTX以外の芳香族化合物が,量は多くはないが生成していた。この挙動は,環化に要する空間の違いと考えられる。ZSM-5のミクロ細孔内では,C9以上の炭化水素が環化するのが困難なのに対し,メソ孔を有するAl2O3担体では,C9以上でも環化が可能なためと考えた16)

結局,廃プラスチックからBTXを収率良く得ようとすれば,今回検討した反応条件を基にするなら,炭素数6から8の原料を供給する必要があり,プラスチックの熱分解の後でC9以上の留分を分離,クラッキングしてC6からC8にして供給する必要があると言える。複雑なプロセスになると想定され,得られるBTXコストが高くなると思われるので,実用化は難しいかも知れない。今回検討した450 ℃程度の反応温度より高い600 ℃付近で,貴金属を含まないゼオライト触媒でのプラスチックの直接変換が検討されており,プロセスとしてはこの方式の方が好ましいと考えられる。ただ,高い反応温度で酸触媒で炭化水素を反応させるため,活性低下は著しいと想定されるので,触媒再生とセットでないと無理と思われる。

5. おわりに

東ソー(株)に就職し,初めてゼオライトの研究に携わるようになった。以来40年間にわたり触媒やイオン交換材等としてゼオライトを研究対象としてきた。MOFに比べれば,ゼオライトは250種類程の構造しか知られていないが,それでもまだまだ色々な用途が考えられる興味深い材料だと感じる。

とりとめもなく,また,学術的に十分な検証もされていないことも記述していると思うが,どんなことを考えてきたのか少しでも参考になることがあれば幸いです。

謝辞Acknowledgments

東ソー時代の入社当初から公私にわたりお世話になった,故 関沢和彦氏,ゼオライトの構造について多くの知見をいただいた板橋慶治氏,困難な実験を共に行っていただいた小栗元宏氏,他にも多くの方々のお世話になり,感謝の念に堪えません。また,関西大学に移ってからは,鈴木俊光名誉教授,池永直樹教授に多くのご支援をいただきました。また,21年間にわたり研究室運営を共にした佐野誠准教授に心より感謝申し上げます。もちろん,大学での研究で苦労を共にし,予想外の結果を出してくれた多くの学生諸君には感謝の言葉もありません。共に過ごせた日々は,何物にも代えがたい私の財産です。最後に,他の大学や企業の方々,また,学会関係者の皆様にも多くの知識,情報やご支援をいただいてきました。この場をお借りして深くお礼申しあげます。ありがとうございました。

引用文献References

1) 関沢和彦,三宅孝典,弘中敏夫,堤 幸弘,特願昭60-028466(東ソー)(1985).

2) Y. Murakami, A. Iijima, J. W. Ward, New Developments in Zeolite Science and Technology, Elsevier, Amsterdam(1986).

3) 佐藤 晶,三宅孝典,関沢和彦,特願平01-286029(東ソー)(1989).

4) 三宅孝典,濱田道幸,佐々木好文,関沢和彦,特願平01-316506(東ソー)(1989).

5) 佐藤 晶,三宅孝典,特願平03-150850(東ソー)(1991).

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