日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 42(1): 1-8 (2025)
doi:10.20731/zeoraito.42.1.1

特別企画特別企画

自立性を有するナノ膜を用いたCO2回収とその展望CO2 Capture Using Free-Standing Nanomembranes and Future Perspectives

1九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所International Institute for Carbon Neutral Energy Research, Kyushu University ◇ 〒819–0395 福岡県福岡市西区元岡744

2九州大学ネガティブエミッションテクノロジー研究センターResearch Center for Negative Emissions Technologies, Kyushu University ◇ 〒819–0395 福岡県福岡市西区元岡744

受理日:2024年10月21日Accepted: October 21, 2024
発行日:2025年1月31日Published: January 31, 2025
HTMLPDFEPUB3

地球温暖化対策の一環として,大気中の二酸化炭素(CO2)濃度削減が急務である。さらなるCO2濃度上昇抑制のためには,CO2の排出削減を行わなければならない。しかしながらすべてのCO2排出源からのCO2回収は不可能であるため,大気からの直接的CO2回収(Direct Air Capture, DAC)も必須である。本稿では,このような大気中のCO2削減を図るため,排出削減と大気からの直接的CO2の両面について概説する。特に有望なCO2回収技術として注目されている,分離膜によるCO2回収技術について,現在の状況と課題について述べ,その中で筆者らが進める「自立性を有するナノ膜」を用いたCO2回収について紹介する。特に,今後重要となるDACに関して,本論文では,DACのための自立ナノ膜を取り上げ,DACにむけた膜性能向上に関する現況を紹介し,最後に,分離膜を用いたDAC(membrane-based DAC, m-DAC)の可能性について述べる。

There is an urgent need to reduce the concentration of carbon dioxide (CO2) in the atmosphere as part of the measures to combat global warming. It is essential to reduce CO2 emissions to prevent further increases in CO2 concentration. However, it is impossible to capture CO2 from all sources of CO2 emissions. Therefore, direct air capture (DAC) of CO2 from the atmosphere is also indispensable. This paper outlines both the reduction of CO2 emissions and the direct capture of CO2 from the atmosphere. First, the current issues regarding CO2 capture technologies are introduced and membrane separation, which has recently attracted attention as a promising CO2 capture technology, is highlighted. In this context, the CO2 capture using “free-standing nanomembranes”, which we are promoting, is introduced. Considering the strong need for DAC technologies, this paper discusses the development of freestanding and nanometer-thick membranes for DAC and the current status of membrane performance improvement. Finally, the future potential of membrane-based DAC (m-DAC) is discussed.

キーワード:CO2回収;膜分離;自立ナノ膜;Direct Air Capture;m-DAC

Key words: CO2 capture; membrane separation; free-standing nanomembrane; Direct Air Capture; m-DAC

1. はじめに

近年,一般社会においても地球温暖化の問題が益々意識されるようになっている。2015年に開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では,21世紀末の大気温度上昇を産業革命(工業化)と比較して,1.5°Cに抑制するよう努力することが合意された1)。このためには,温暖化の原因である温室効果ガス(Green House Gas, GHG),とりわけ二酸化炭素(CO2)の排出削減が重要となり,各国が自主的にGHG排出量削減目標を設定している。日本もGHG排出削減の中期目標(2030年)として,「2013年度比で26%削減」を掲げており,まさに国を挙げてGHG排出削減に向けた動きが加速している。

「GHG排出削減」は,その名前の通り「“排出”削減」を意味するが,これは排出量の増加によって,大気中のCO2量(濃度)が今以上に増加して地球温暖化が加速しないようにするためである。しかし温暖化の本質的なポイントは,「大気にあるGHG量の削減」そのものである。従って,「これ以上増やさないようにする(排出削減)」だけではなく,「すでに大気に存在しているGHG量の削減」も同時に行わなければならない。昨今は,CO2排出削減にむけて,様々な施策,社会的・経済的な動きなど,あらゆる方面での対応・対策が進められている。

1.1 排出抑制のためのCO2回収と主要な回収技術

温室効果ガスはCO2以外にもメタン(CH4)なども含まれるが,人為起源のGHG排出量(に占める割合をみると,CO2が75%を占め,特に化石燃料起源のCO2が64%をしめる2)。特に火力発電所などは化石燃料を用いて発電するため,日本におけるエネルギー転換部門からは日本のCO2総排出量(約10億3668万トン)の40.5%を占めるCO2を排出している2)。このような大規模排出源からのCO2回収は,大きな削減効果が期待でき,また喫緊の対策を必要とする課題である。

大規模排出源におけるCO2回収の主要技術として,吸収法,吸着法,膜分離法の開発が進められている(図1)。各技術の詳細について他成書に譲るが,概略は以下のとおりである。

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図1. 主要なCO2回収技術.

吸収法は,化学反応によってCO2を吸収する分離回収技術である。CO2と反応しうるものとしてアミン系化合物が用いられる場合が多い。特にアミン化合物の水溶液をCO2吸収液として使用する技術は,低圧で大量のCO2を排出する石炭火力排ガス処理プラントなどで商用化の実績がある。この吸収液の再利用と同時に,回収CO2の地下貯留のため,吸収されたCO2を吸収液から再回収する必要がある。しかしながらその再回収に要する熱エネルギーが大きいため,より小さなエネルギーでCO2の再回収が可能な吸収液ならびにプロセスの開発が進められている。また,アミン化合物を多孔質材料表面にコーティングしてCO2吸収材とする技術(固体吸収法)の開発に進められている。より高性能な吸収材の開発によって稼働効率の向上やコスト低減化が期待される。

これに対し吸着法は,CO2と吸着剤との間の物理的な吸着現象を利用する回収技術である。具体的にはゼオライトなどの多孔質体へのCO2の物理的な吸脱着作用を利用してCO2を回収する。温度や圧力の変化によってCO2の吸脱着を繰り返すため,吸着剤の再利用が可能であり,一般に分離回収に要するエネルギーが小さく,設備を小型化も可能と期待されている。一方,吸着剤の種類によっては水との親和性が高いため,水蒸気を含む排ガスの場合は,水蒸気とCO2の拮抗吸着の問題や,吸着剤の劣化が課題となっている。

最後に膜分離法は,圧力差によって分離膜の供給側から透過側へCO2を透過・分離する分離法である。この膜分離は,プロセスがシンプルでエネルギー消費が少なく,設備も小型化できると期待されている。分離メカニズムによって,主に膜内に明示的な細孔を持ち分子サイズに基づく分離である分子ふるい機構,明示的な細孔を持たない溶解拡散機構に分けられる。分子ふるい機構では,細孔径よりもサイズの小さな気体分子が選択的に透過する。一方,溶解拡散機構では,膜材料に親和性のある気体分子が,膜に溶解(収着)して選択的に透過する。膜分離法は吸収・吸着法のような再生処理(CO2再回収処理)が不要である。従って設備の省スペース化が可能であり,一般的に他の分離法に比べ低コストかつ省エネルギーでの分離が可能となる。膜材料としては,高分子膜,無機膜,有機/無機複合膜,促進輸送膜など,種々の新規膜材料が開発されている。

これら三つの技術のうち,最も低コスト回収として期待されているのが,膜分離法であり,近年活発に研究が進められている。

1.2 大気からのCO2回収~ネガティブエミッションテクノロジー~

前節で述べたように,CO2排出削減技術として,火力発電所などの大規模CO2排出源でのCO2回収とその地下貯留があり,これはCarbon Capture and Storage(CCS)と呼ばれる。最近では,回収したCO2を利用する(Utilization)という動きもあり,これらを合わせてCCUSと言われることが多い。広義では,後述するネガティブエミッションテクノロジー(Negative Emissions Technologies, NETs)もCarbon Captureに含まれるが,一般的にCCUSといえば,人為的な排出源からのCO2回収を起点とする一連のプロセスを指す場合が多い。

これに対し,すでに大気に放出されてしまっているCO2を回収する技術のことをネガティブエミッションテクノロジーと呼ぶ。では,なぜこのNETsが必要なのであろうか。図2はCO2削減シナリオに基づくCO2排出量の年次推移を示している3)。あらゆる人為的なCO2排出源でCO2回収を行えば,CO2の大気放出をかなり抑えられるはずだが,それは現実的には厳しい。例えば重工業や素材産業,信頼性の高い電力供給,航空・船舶・トラックなどの長距離輸送など,本質的かつ直近的に排出削減が難しい部門や,農業などのどうしても避けられない残余排出分が残る。これらの残余排出分は,大規模排出源からのCO2排出量に比べれば低い。しかしながら,CO2は超長期で大気中に滞留するため,CO2を追加的に排出すればそれに相当するだけ気温は上昇してしまう。従ってCOP21で採択されたパリ協定では,できるだけ早い段階で温暖化ガスの排出量を抑制・削減すると同時に,CO2排出量と森林等によるCO2吸収量を均衡させる,すなわち,排出量を正味ゼロ(ネットゼロ)が必要とされている。NETsによって,CO2排出の正味ゼロを早期実現し,さらにそれを推し進めて大気CO2の削減をしない限り,気温は安定しないことが科学的な検討からも明らかになってきた。ここにNETsの必要性があり,NETs技術の研究開発とスケールアップを伴う早期社会実装が急務となっている。

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図2. CO2排出量と排出削減の年次推移.文献3をもとに作図.

1.3 Direct Air Capture (DAC)

大気からCO2を回収するための技術は数多く提案されている。技術の詳細については他成書に譲るが,CO2回収の部分に着目すると,何らかの自然のCO2吸収機構を利用するものと,人為的なCO2除去に区別できる。Direct Air Captureは人為的な回収技術である。現状では数百ドル/t-CO2の回収コストが必要とされているが,人為的にCO2を効率的に回収するために,回収量のポテンシャルは高く,大気中のCO2削減に大きく貢献可能と期待されている。

このDirect Air Captureを支えるCO2回収技術は,火力発電所等の大規模排出源で用いられているCO2回収技術と,「CO2を選択的に回収する」という点において共通する部分が多い。根本的な違いは「回収源に含まれるCO2濃度」である。一般に火力発電所などの大規模排出源から排出される排気ガスには,10~30%程度のCO2が含まれている。これに対し大気中のCO2濃度は,わずか0.04%(400 ppm)である。DAC用途のCO2回収も,吸収・吸着法が主に使われている。ただし,大気という膨大量かつ低濃度のCO2を低エネルギーで回収しなければならない。すなわち,大気から1 kgのCO2を回収するために,それに用いる電力エネルギー製造時やプロセス中の加熱,あるいは回収装置・システムの製造・設置に排出されるCO2量が1 kg以下でなければならない。ここにDAC技術の難しさがある。

2. CO2回収における膜分離

選択透過膜によるCO2分離・回収は,より小型でシンプルな設備で済むため,他回収技術に比べて,基本的には有利である。分離膜の性能を決める指標として,選択性と透過度がある。このうち選択性については,極めて高いCO2選択性を示す分離膜が報告されており,実利用に必要な選択性を持つものもある。これに対し,透過度は,分離膜を経済的に実行可能な条件下での運用に満足できるものがない。この透過度は重要であり,Merkelらは,発電所からの排ガスからCO2を回収するコストを削減するには,選択性の向上よりも気体透過度の改善の方が重要であると結論づけている4)。このため近年では,CO2透過性の高い高分子膜の開発が活発化している。

2.1 分離膜の気体透過度の向上

膜の気体透過流束(J (m3(STP)/m2·s),STP:標準状態)は,式(1)で示される。

(1)J=PaΔP/L

ここでPは,対象気体の膜透過前後の圧力差(Pa), L (m)は膜厚,Pa (m3(STP)·m/m2·s·Pa)は高分子膜の透過係数である。この式からも明らかなとおり,透過度を向上させるためには,より高い透過係数を持つ材料を開発するか,あるいは分離膜の薄膜化である。

透過係数の向上を図るためには,その透過係数の中身を知る必要がある。主要な分離膜である高分子分離膜は溶解拡散機構に基づく分離機構となり,その透過係数は,以下の式で表される。

(2)Pa=DaSa

ここで,DaおよびSaは,高分子膜中の気体分子の拡散係数ならびに高分子膜への気体分子の溶解度係数となる。この式からも明らかなように,高分子膜中での気体分子の拡散性向上は,透過量向上に大きく寄与する。気体分子は高分子鎖間の隙間を通じて膜内を拡散するため,高分子主鎖の絡まりや主鎖間距離を広げるなどの方法が有効である5)。例えば,ポリヘテロアリレンの一つであるラダー型のポリベンゾジオキサンス,固有微多孔性ポリマー(Polymers of Intrinsic Microporosity, PIM),ポリイミド,ポリアミド,ポリイサチンなどが含まれる。これらの化合物は,ポリマー鎖の充填を緩め,気体透過係数を増加させる特徴的な化学構造を有することである。具体的には,主鎖のねじれや嵩高い置換基を持つグループがあり,これによって主鎖の回転障壁と剛性を高める。このため,製膜時での高分子主鎖の物理的絡まりが低減化され,鎖間に隙間を形成しやすい。このような特徴的な化学構造によって,高分子鎖間に特定のサイズ分布を持つ分子隙間が形成し,これによって分子ふるい能を発現する。これにより,例えばポリヘテロアリレンは高い透過係数を持ち,多くのガス対(例えば,O2/N2,CO2/CH4)に対する選択性の向上に寄与している。

分離膜中に明示的に細孔を導入するという点では,Mixed Matrix Membrane(MMM)と呼ばれる高分子膜材料中に多孔質無機系フィラーを導入し,気体透過性能の向上と成膜性の同時実現を図る研究も進められている6)。近年そのフィラーとして,より細孔サイズや細孔内壁の分子設計が可能な,金属有機構造体(Metal-Organic Framework=MOF)と呼ばれる多孔質金属錯体の利用が活発化している7,8)

このように剛直性の高分子や多孔性ナノ粒子を使うMMMなどは高い透過係数を持つものの,実際の透過度は低くなる場合が多い。例えば,剛直高分子の場合は製膜溶剤に対する溶解性が低いため製膜性が低く,得られる膜も柔軟性も乏しいため,膜欠陥が生じやすい。この欠陥生成を避けるために厚膜で取り扱われることが多く,結果として(透過係数は高いものの)気体透過度そのものが低い。またフィラーを用いる場合も,フィラーと膜材料との接合界面の問題や,フィラー粒子の凝集という課題があり,同様な課題が残されている。

以上のように「気体透過係数の高い分離膜材料を開発する」という動きに対し,分離膜の薄膜化も透過性向上に極めて有効であるが,実際は多くの進展はみられていない。その理由は,分離膜厚みが薄いにもかかわらず,

  • 〇気体分子レベルで無欠陥であること
  • 〇自立的な膜であること

という二つを同時に満たさなければならないという点である(図3)。一般的に分離膜は,多孔性支持材を用いるが,この多孔材表面の開口部上では分離膜は自立しなければならない。このように「超薄膜化」と「自立性の確保」が,この薄膜化による透過性向上を妨げる,大きな技術課題であった。

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図3. 分離膜に求められる構造的要素.

2.2 自立性を持ちナノメートル厚みの分離膜~自立性分離ナノ膜の創製~

上述のように気体分離高分子膜としてはガラス状高分子と呼ばれる,比較的主鎖が剛直な材料が用いられる場合が多いが,一般的にこのような高分子材料の薄膜化は困難である。これは主鎖の柔軟性が乏しく,膜全体としても柔軟性を失い,薄膜時に欠陥が生じやすいためである。

一方,ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのゴム材料は,一般的にガラス転移温度が低く,室温近辺でも主鎖は極めて高い熱運動性を持つ。従って主鎖間の自由体積空間が多く,(ガラス高分子のような明示的な細孔を持たないものの)気体透過性が高い。さらにその柔軟な主鎖構造から製膜性に優れているため,気体分離膜技術材料の基盤として有望な材料である。このような材料は,高い製膜性という点では超薄膜化が可能となる。

この観点のもと,我々は架橋性PDMSを用いて,これを約30 nm程度までの自立薄膜化に成功し,約40,000 GPU(1 GPU=7.5×10-12 m3(STP)/m2·s·Pa, STP: 標準状態)という,世界でも類を見ないほど圧倒的に高いCO2透過度を実現した(図49)。ここでいう透過度は,「単位面積・時間・圧力差あたりに膜を透過する気体量」である。膜材料固有の性能比較という点では,「透過係数」は重要な意味を持つが,実際の利用においては,「どれくらい気体が透過するか?」という透過度が重要な指標である。従って分離膜性能としては,透過係数だけでなく,透過度も評価すべきであろう。

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図4. 作製した自立ナノ膜とその膜性能.(a)自立ナノ膜の外観(円形白枠内部),(b) CO2透過度およびCO2/N2選択性の膜厚依存性(*GPU: Gas Permeance Unit, 1 GPU=7.5×10−12 m3(STP)/m2·s·Pa, STP:標準状態).

またこの架橋性PDMSナノ膜は,バルクPDMS膜と同じ選択性(CO2/N2≒11)を示した。この選択性は高いものとは言えないが,「ナノメートル程度の薄さであるにもかかわらず,自立した無欠陥膜」という特徴を示すものである。

2.3 自立性分離ナノ膜の選択性向上

「自立性」「超薄膜」「高いCO2選択性」を同時に満足する材料があればよいが,このような膜材料の創出は容易ではない。さらに材料の多角的設計という観点からも,材料選択の自由度が狭まってしまう。このため,各要求能を各層に分担させた薄膜複合膜(thin film composite membrane)とよばれるアプローチは有効であり,数多く報告されている10–12)

PDMSナノ膜の高透過性を活かしつつ,選択性を向上させるには,このナノ膜上にCO2親和性を有する材料を超薄膜状に展開すれば,選択性の向上が期待される。実際に,PDMSナノ膜上に高いCO2親和性を持つポリエチレングリコールを有するポリ(エーテル-b-アミド)(Pebax-1657)を2~20 nm程度の厚みで導入したところ,CO2/N2選択性が約70程度まで向上した13)

CO2親和性を有する材料は親水性(極性)を持つものが多いが,PDMS表面は疎水性であるため,このようなCO2親和性材料を均一かつ超薄膜状にPDMS膜上に展開することは困難である。事実,先の場合も,事前にPDMS表面を酸素プラズマ処理して親水化する必要があるが,これによって,PDMS膜表層にSiO2様の緻密層が形成し,CO2透過度がある程度減少してしまう。今後は,この親水性と疎水性の材料の界面制御が研究の大きな課題となるであろう。現在,我々は酸素プラズマを用いず,PDMS表面での分子化学反応を活用し,均一かつ極めて薄いCO2親和性層の構築を行っている。

3. 自立ナノ膜によるCO2回収のポテンシャル

これまでも述べたように,CO2回収としては「排出抑制」と「DAC」という二つのシナリオがある。これらの大きな違いは「回収地点」の違いである。排出抑制にかかわるCO2回収は,大規模な排出源という限定された地点で用いられるため,それに合わせたCO2回収プロセスの最適化が可能である。一方,DACの場合は,(CO2回収地点が特定される排出抑制型CO2回収とは)全く反対の特性,すなわち地上の至るところに存在する大気からCO2を回収するという,「ユビキタス性」CO2回収が求められる。これを踏まえると,薬品や巨大な設備を必要とせず,回収量は膜モジュールの調整で対応可能,という高いサイズスケーラビリティを有している膜分離は非常に有効な技術と言えよう。しかしながら,これまで膜分離をDACに用いるという試みは皆無であった。なぜであろうか。

一般的には,膜分離は透過回収のために,膜の透過前後での圧力差が必要である。空気中のCO2濃度が400 ppmと極めて小さいため,十分な透過量を確保するための圧力差が得られにくい。現時点でも市販のCO2分離膜は存在するものの,これらを使用してDACを実施しようとすれば,透過量確保のために,圧力差を発生させるエネルギーや,必要な膜面積が非現実的なほど巨大になってしまう。このような理由から,分離膜を用いる大気からのCO2直接回収は現実的ではないと考えられていた14)。逆に言えば,分離膜のCO2透過性とCO2選択性が十二分に高ければ,膜を用いたDACは有望な技術になりえる。すでに我々は,自立ナノ膜を使って圧倒的に高いCO2透過度を実現している。低濃度のCO2混合ガスからでも,CO2の回収に成功しており9),膜を用いるDAC(membrane-based Direct Air Capture, m-DAC®)は実現可能と思われる。

このm-DACの可能性を探るために,プロセスシミュレーションを行い,大気中からCO2回収に必要な膜分離性能を精査した15,16)。その結果,CO2透過度が10,000 GPU程度で,他のガスに対するCO2選択性が30以上という性能の膜があれば,多段分離で,一日あたり1 kgのCO2回収可能性が示唆された。これに必要膜面積は約5 m2程度と小さく,このような小さな膜モジュールであれば,どこにでも設置可能であり,まさにユビキタスCO2回収として膜分離は有効であろう。

回収する周囲空気中のCO2濃度が高くなれば,m-DACに要するエネルギーは低減化できる。例えばオフィス空間内や地下鉄構内,道路脇など,人が密集し,活発な経済活動地点は,CO2濃度は高くなる。Ozinらは,フランクフルト(ドイツ)のランドマークビルであるFair Towerを例に,ビル内からのCO2回収量を見積もっており17),空調のエアフィルターのように,既存の生活環境にスムーズに融合しやすい膜分離は大きな利点とも言えよう。

ここでCO2回収以外に重要な点は,CO2回収後のシナリオである。例えば都市部で回収したCO2はどのように処理すればよいであろうか。例えば,回収したCO2を利用できる炭素資源に“その場”で変換すれば,有効な炭素資源の地産地消という新しい視点が見えてくる。すでに清水らは,我々が開発したm-DAC装置を用いて回収したCO2からCH4などの有価物製造に成功している(図518)。このようにオフィスビルで回収されたCO2を都市ガスの主成分であるCH4に変換すれば,都市ガスの一部としてその場で利用できよう。また都市ガスのパイプラインを使えば,余剰分は地域での循環利用も可能となる。

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図5. DACとCO2変換部が連結したDirect Air Capture and Utilizationシステム.

このような観点のもと,我々は内閣府「ムーンショット型研究開発事業」の支援を受け,分離膜による大気からの直接的CO2回収ユニットと,回収したCO2を炭素資源に変換するユニットを連結し,CO2回収から変換までを,一気通貫で行う「Direct Air Capture and Utilization System(DAC-U system)」の開発を進めている。ここでは電気化学的なCO2変換についても研究しており,CO2変換技術とDACの組み合わせた小型ユニットは,都市部や市街地などを中心に,必要な場所で必要に応じてCO2の回収と変換を行えば,炭素資源循環が実現された“ビヨンドゼロ”社会の実現に貢献する可能性を持つ。

このように,自立ナノ膜を用いるCO2回収は,地球温暖化問題の解決だけでなく,大気CO2回収を起点とする炭素資源の循環にも通じ,日本社会が抱える,根本的なエネルギーシステムの課題解決に貢献しえる可能性があろう。

引用文献References

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